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グローバル・バリューチェーンが世界にもたらす恩恵と課題とは?世界開発報告2020セミナー開催

2019年12月13日

2019年11月25日、世界銀行グループとJICA研究所は、セミナー「世界開発報告(WDR)2020:グローバル・バリューチェーン時代の貿易による開発促進」を共催しました。JICA研究所からは、大野泉研究所長と細野昭雄シニア・リサーチ・アドバイザーが登壇しました。

世界銀行グループは、1978年からその時代の重要なテーマを分析して政策提言をまとめた「世界開発報告(World Development Report: WDR)」を毎年発表しています。WDR2020年版では「Trading for Development in the Age of Global Value Chains」をテーマに掲げ、グローバル・バリューチェーン(Global Value Chain: GVC)が開発途上国の開発に与える恩恵と問題点を論じています。

WDR2020の執筆担当共同局長を務めたアディティヤ・マトゥー世界銀行東アジア地域担当チーフエコノミスト

このセミナーでは、WDR2020の執筆担当共同局長を務めたアディティヤ・マトゥー世界銀行東アジア地域担当チーフエコノミストが基調講演を行い、報告書の概要を紹介しました。マトゥー氏は、GVCが従来の貿易とは異なる点として、製品を超分業(Hyper specialization)で生み出す体制を推進したことが挙げられると指摘。GVCに参画した企業は一つの部品や技術に対する専門性を高められるため、その分野において国際市場で戦える競争力が身に付き、また、GVC内では発注者と請負者が直接契約を結ぶため(Firm-to-firm relationships)、ビジネスがうまくいけば持続性の高い関係を築くことができると説明しました。こうした特徴から、途上国の中小企業がGVCに参入すると、生産性の向上や雇用の拡大などが起こり、その結果、貧困の削減につながるとし、GVCに参加している地域でより急速に貧困削減が進んでいるベトナムを例として挙げました。

その一方で、優良なグローバル企業からの受注獲得や投資の誘致に対する競争が激化し、先進国と途上国間の不平等などが生まれているとマトゥー氏は述べました。またGVCの拡大によって、女性の労働者は増えているものの“ガラスの天井”を打ち破る推進力にはならず、ジェンダーの不平等は改善していないこと、さらに、多国間輸送が増えていることから二酸化炭素排出量の増加といった環境への悪影響が生じていることにも触れ、「途上国が開発を進めていくためには貿易だけでは解決できないため、その分野を超えて世界各国が協力すべきだ」と指摘しました。

コメントしたJICA研究所の細野昭雄シニア・リサーチ・アドバイザー

基調講演を受けて細野シニア・リサーチ・アドバイザーは、GVCが環境に与える影響などについてコメント。WDR2020が電子産業における廃棄物を利用した「循環型電子産業バリューチェーン(Circular Electronics Value Chain)」などに言及していることに触れ、「非常に重要なコンセプトであり、関連する研究をさらに深めて主流化していくべき」と発言。また、日本の循環型経済の取り組みとして、中古車部品輸出業を営む企業の事例や、ブラジルの日系人居住地トメアスで行われているアグロフォレストリーの事例を紹介しました。さらに、途上国の中小企業のGVC参画が難しくなってきていることから、発注側のグローバル企業と現地サプライチェーンのつながりを強化し、企業だけではなく、政府、NGOなどさまざまなアクターが連携する制度・組織が必要だと訴えました。

早稲田大学の戸堂康之教授もテレビ会議で議論に参加し、「WDR2020はGVCを俯瞰的に分析していて、現在の世界経済について非常に重要な示唆を与えてくれる」と高く評価。その上で、GVCの拡大による反グローバリゼーションの高まりや、安全保障上の理由で輸出や海外投資、技術移転が世界中で制限されていることなど、WDR2020では触れられていない課題を指摘しました。

JICA研究所の大野泉研究所長(中央)がモデレーターを務めたパネルディスカッション

続くパネルディスカッションでは大野所長がモデレーターを務め、「これだけグローバル企業の影響力が強まっている今、途上国政府が自国の産業開発・発展に行使できるポリシースペースが縮小しているのではないか?」と提議して議論が行われたほか、会場からの質疑応答では「アフリカのように限定的な産業しか持たない途上国がGVCに参加するのは正しい選択なのか?」といった質問が挙がり、活発な意見交換が行われました。

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