質の高い成長に向けて世界が直面する新たな挑戦とは—ポストTICAD7イベントで議論

2019.12.11

2019年12月3日、JICA研究所はコーネル大学のラビ・カンブール教授を迎え、ポストTICAD7イベント「The Quality of Growth in Africa」をJICA市ヶ谷ビルで開催しました。コメンテーターとして、政策研究大学院大学の大野健一教授のほか、JICA研究所からは細野昭雄シニア・リサーチ・アドバイザーと島田剛招聘研究員(明治大学准教授)が参加しました。

会場からの質問も多く挙がり、質の高い成長について議論

冒頭のあいさつに立ったJICA研究所の藤田安男副所長は、2008年に始まったJICA研究所とコロンビア大学政策対話イニシアチブ(Initiative for Policy Dialogue: IPD)による共同研究プロジェクトの成果として4冊目となる書籍『The Quality of Growth in Africa』が2019年8月に出版されたことを紹介。「同書の編者の一人、カンブール教授を迎えた本日のイベントは、書籍の内容を超え、アフリカに限らず、世界の質の高い成長や変革について議論する非常に貴重な機会となる」と述べました。

カンブール教授は「Past, Present and Future of the Quality of Growth: In the World and In Africa」と題した基調講演を行い、世界が向き合う新たな挑戦と、アフリカへの国際協力という二つの論点を提示しました。まず、「第二次世界大戦後のこれまでの70年間には、世界大戦のような大惨事はなく、一人当たりGDPをはじめとする社会的・経済的指標が改善した“最良の時代”であったにもかかわらず、現在、質の高い成長を脅かす大きな懸念に直面している」と述べ、その背景として、先進国の富裕層や新興国の中間層の所得が増えた一方で先進国の中間層の所得が伸び悩んでいること、アフリカでは貧困率は低下するも貧困人口は増加していること、国際的な移民が増加していることを挙げました。

基調講演を行ったコーネル大学のラビ・カンブール教授

さらにカンブール教授は、世界が取り組むべき新たな挑戦として、(1)技術革新による労働の置き換え、(2)さまざまな課題の国境を超える波及効果と国家単位の政策の限界、(3)国際機関の機能不全という3点に焦点を当てました。「まず、技術の進化により高度なスキルを持った熟練労働者とスキルのない労働者間の不平等が拡大している。そして、労働力にとどまらず、税制や資本、気候変動などの課題には国境を超える波及効果があり、一国だけでは対処できない。かつ、国際機関はうまく機能しておらず、例えば世界銀行もその役割を果たせていない」と述べました。

次に、アフリカでの国際協力については、急速に変化する世界において過去の東アジアでの開発の成功経験をアフリカで活用することは難しいとし、「援助機関は伝統的に国ごとに援助プログラムを実施してきたが、現在は国境を越えるさまざまな課題があり、アフリカへの援助は大きく変わった。援助の新しい形は何か。過去を引き継ぐだけではなく、未来への挑戦となるよう精査する必要がある」と述べました。

基調講演を受けて、細野シニア・リサーチ・アドバイザーは、「質の高い成長は、“変革”という文脈で議論される必要がある。例えばアフリカ大陸内の自由貿易協定や国をまたぐ経済回廊の開発は、投資の促進や市場の拡大をもたらし、産業の変革と地域の不平等削減への最初のステップとなり得るのではないか」とコメントしました。

また、大野教授は、「不平等・雇用・環境などの課題に対しては、国ごとの開発支援アプローチによる政策は現在でも有効だと考える。新たな挑戦の重要性については同意するが、従来の課題の比重もまだ十分に大きいのではないか」と意見を述べました。

左から、JICA研究所の島田剛招聘研究員、細野昭雄シニア・リサーチ・アドバイザー、政策研究大学院大学の大野健一教授

さらに島田招聘研究員は、「アフリカでは気候変動による災害が急増しており、農業などの生産に大きな打撃を与えている。また、都市においてもすでに大気汚染などが悪化している。気候変動についてはアフリカには責任は少なく、先進国は経済成長と環境を両立させるようなグリーン産業政策を支援する必要がある」と述べました。

最後に会場からも多くの質疑が挙がり、有意義な議論が展開されました。

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