コロナを踏まえた水・衛生分野の新たな開発援助とは?チャタムハウスのウェビナーで議論—武藤副所長

2020.10.05

2020年9月7日、JICA緒方貞子平和開発研究所の武藤めぐみ副所長が、英国王立国際問題研究所(チャタムハウス)主催のウェビナー「COVID-19 and Japan’s Coordinated Development Responses in Asia」に登壇しました。同ウェビナーは、さまざまなアクターと連携した開発を目指してきた日本のODA、特に水・衛生分野での支援が新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の影響下でどのような対応をとっているか、今後の開発援助の在り方も含めて議論するために企画されたものです。

武藤副所長は、「従来の開発援助が推進できない中、このパンデミックを乗り切るためには、知識の協創や共有をしていくことが大事」とまず強調し、コロナ対応としては、財政支援に加え病院や研究所を含む医療体制強化を支援する準備を進めていることに触れました。特に水分野に関しては、世界の人口の40%に相当する30億人が水や石鹸へのアクセスがなく、コロナの感染拡大を防ぐために手洗いを家庭でできないこと、開発途上国では約10億人が人口密度の高い地域に住んでいると推定されること、そして、JICAのパートナーでもある各国の水道事業者が経済活動の停滞や都市封鎖などの影響を受けて水道料金を収集できず、財政難に直面していることなどを課題として挙げました。

JICA緒方貞子平和開発研究所の武藤めぐみ副所長が英国王立国際問題研究所主催のウェビナーに登壇

その上で武藤副所長は、「JICAによる水分野の協力は、コロナ以前から、援助する側、される側という形を超えて多角的な連携のネットワークに進化しており、日本の水道事業者も含め、アジアやアフリカで学びのネットワークの創造にまで発展している。これを駆使して2020年3、4月には、ネパール、パキスタン、バングラデシュ、タジキスタンなどの国々で、水道のエッセンシャルワーカーを守るための対応や塩素を中心とした薬品など細かなニーズの情報収集や手洗いキャンペーンを開始した」と紹介しました。気候変動による課題に対して、水、衛生、保健、運輸などのセクターごとではなくマルチセクターによる対応が必要なのと同様、コロナ対応でも、JICAでは水分野と人間開発分野や都市開発の部署が協働し、保健所や学校、公共交通機関などに水道や手洗い場を設置する取り組みを始めているほか、技術面から組織運営面までのキャパシティビルディングの支援を通して築かれてきたパートナーとの信頼関係をもとに、JICAのビジネスモデルが変化しつつあることにも言及しました。

JICAの水分野での取り組みを説明した武藤副所長

続いて、JICAのパートナーとして長期にわたり技術的な協働を続けてきたパキスタン第2の都市ラホール市の上下水道公社(Water and Sanitation Agency: WASA)の総裁を務めるサイド・ザヒッド・アジズ氏が登壇しました。

ザヒッド氏は、WASAが通常は上下水道の設計、管理、運営、維持、利用料金の徴収といった業務を行っているが、このコロナ下では上下水道の消毒や現場スタッフへの防護・消毒用品の供給などにも対応しているほか、事業継続のために管理部門でのリモートワークの実施やWhatsAppやFacebookなどを含むオンラインでの集金システムの導入、請求書発行業務のアウトソーシングの活用など、さまざまな新たな挑戦をしたことを紹介。さらに、人々が手洗いをできるよう水タンク車や手洗いステーション、手洗いドラム缶の設置、低所得コミュニティーへの石鹸の無料配布、道路を消毒する消毒車の運行、公共施設入口へのウォークスルー消毒トンネルやゲートの設置、研究所での消毒剤・殺菌剤の生産のほか、大学と協力して都市封鎖エリアの下水調査を実施することで感染者がより多いエリアを特定して効果的な都市封鎖をサポートしたことも紹介しました。ザヒッド氏は、「WASAはこれら全ての挑戦から得られた知見を、ウェビナーを通してほかの水道業者やパートナーと共有した。この経験を踏まえ、今後は各業務へのIT技術の導入、可能な限りのアウトソーシングの活用、危機管理計画の策定、知識や経験の共有が重要だと考えている」と述べました。

ラホール市上下水道公社のサイド・ザヒッド・アジズ総裁がコロナ対応について発表

質疑応答では、ウェビナーならではの世界各地の参加者より、人間の安全保障の概念が与えるJICAのコロナ対策への影響、財政支援の現状、多様なステークホルダーとの協働・共創などについて議論が交わされました。

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