JICA緒方研究所

ニュース&コラム

サービス産業が開発途上国の新たな開発を主導する可能性は?世界銀行との共催セミナーで議論

2022年2月1日

2021年12月3日、世界銀行グループとJICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)は、世界銀行グループが2021年9月に発刊した報告書「At Your Service?: The Promise of Services-Led Development」についてのオンラインセミナー「途上国におけるサービス産業の貢献:サービス主導型開発の可能性」を共催しました。

世界銀行金融・競争力・イノベーショングローバルプラクティスのガウラヴ・ナイヤー上級エコノミスト

まず、同報告書の著者である世界銀行金融・競争力・イノベーショングローバルプラクティスのガウラヴ・ナイヤー上級エコノミストとメアリー・ホールワード=ドレマイア上級経済アドバイザーが発表しました。

世界銀行のメアリー・ホールワード=ドレマイア上級経済アドバイザー

ナイヤー上級エコノミストは、過去約20年間に、低・中所得国も含め世界の75%の国でGDPに占める製造業の比率が低下していることを指摘。「一般的には農業から工業、サービス産業へと産業構造が転換していくところ、低・中所得国では工業化が十分に進むよりも前にサービス産業の相対的な割合が増す現象が起こっている。それに対して製造業振興をもっと進めるべきという議論もあるが、この報告書では製造業の代わりにサービス産業が生産性向上と雇用創出にどう貢献できるかを提示したい」と述べました。そして、サービス産業は、国際的に取引が可能か否か、労働集約度、スキルレベル、他の産業セクターとの関連性によって、①ITや金融など高いスキルを要し、生産性が高いグローバル・イノベーター・サービス、②運輸や卸売などの低スキルだが国際取引可能なサービス、③医療や教育などの技術集約的社会サービス、④小売や事務的業務などの低スキルの国内向けサービス、の4つに分けられ、それぞれ生産性と雇用創出能力に違いがあると説明。「今後の開発途上国での課題は、サービス産業の雇用をグローバル・イノベーター・サービスでより増やし、同時に低スキルのサービス産業従事者の生産性を上げること。規模の拡大、イノベーション、他の産業セクターへの波及効果という面でも、サービス産業はかつての製造業同様、経済をけん引する力がある」と主張しました。

次にホールワード=ドレマイア上級経済アドバイザーは、「従来、サービス産業は、生産性が低い分野で雇用を多く創出してきた。しかし、例えば低スキルの小規模小売業者が在庫管理や会計処理などでデジタルのアプリを使用してイノベーションを図れるように、デジタル技術を生かせば生産性向上が可能になる」と説明。また、工業化の度合いが低くても、オンラインプラットフォームでの仕事の発注先やメディカルツーリズムの渡航先として、低・中所得国が選ばれているデータを示しながら、研究開発やデザイン、スマートフォンのアプリのように、サービス産業が製造業自体を増強・補完する役割を果たせることにも触れました。さらに、サービス産業による経済変革を実現するためには、4つのT、すなわち、貿易(Trade)、技術(Technology)、訓練(Training)、ターゲティング(Targeting)が鍵になると強調し、それぞれの相関を意識して強化を行うことで効果をさらに大きくできるとしました。

コメントしたJICA緒方研究所の原田徹也上席研究員

この発表を受けてJICA緒方研究所の原田徹也上席研究員は、「多種多様なサービス産業を特性に応じて4つに分類して議論していることは適切で、今後のサービス産業に関する分析のスタンダードになっていくことが望まれる」と感想を述べました。その上で、アジアとサハラ以南アフリカの非農業サブセクター別の生産性と雇用シェア分布の過去20年の比較から、「アジアでは製造業とサービス産業の発展が相互に影響を与えていずれの部門でも生産性向上が図られてきたと思われるが、アフリカでは規制環境や電力などのインフラの制約など、製造業、サービス産業共通のボトルネックもある。低・中所得国の中でも地域別の前提条件の違いがあることににも着目する必要がある」と指摘しました。

さまざまな問題提起をした慶應義塾大学の木村福成教授

続いて慶應義塾大学の木村福成教授は、「製造業主体の経済発展モデルは重要だが、必ずしも全ての低・中所得国がこれにならって経済発展できるわけではないことが分かってきた」とコメント。さらに、「製造業なしで開発を進めるには、生産性と雇用、外貨獲得力、無形資産投資のペース、政治的に持続可能な包括性などの懸念点は払拭できるか?」「東アジアで製造業の基盤がある利点をどう活用すべきか?」「既存の製造業中心の技術革新から、スピードもリスクも大きいデジタルの技術革新へどのようにシフトしていくべきか?」といった3つの問題提起を行いました。

こうしたコメントに対して報告書の執筆陣からは、「“製造業かサービス産業か”といった二元論ではなく、製造業のみが注目されてきた経済発展のシナリオをサービス産業へも広げていくべき、という観点を主張したい」といったフィードバックがありました。

質疑応答では、移民や気候変動の影響、新型コロナウイルス感染症のパンデミック後の見通しなど、参加者からさまざまな質問が寄せられました。最後に、両コメンテーターからの「この報告書を契機に、サービス業をめぐる議論と分析がより活発になるだろう」との期待の言葉でセミナーが締めくくられました。

関連動画

Seminar 'At Your Services?: The Promise of Services-Led Development' (December 3, 2021)

ページの先頭へ