“教育”の視点から在日日系ブラジル人と日本社会を見つめて—「移住史・多文化理解オンライン講座~歴史から『他者』を理解する~」第1回開催

2022.02.14

2022年1月18日、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)とJICA横浜 海外移住資料館は、「移住史・多文化理解オンライン講座~歴史から『他者』を理解する~」をオンラインで共催しました。全6回シリーズの第1回目となる今回は、神田外語大学の拝野寿美子准教授を迎え、「南米の日系人の来日と定住:『日系ブラジル人』や『教育』をキーワードに考察する」をテーマに講演が行われました。

JICA緒方研究所の研究プロジェクト「日本と中南米間の日系人の移動とネットワークに関する研究」の主査を務める長村裕佳子研究員による開会のあいさつに続き、「日系人とは誰か?」という問いから拝野准教授の講演がスタート。19世紀の終わりから始まった日本人の南米移住の歴史を振り返り、日系社会の当時の暮らしや現状を紹介しました。家族移民が条件だったこともあり、ブラジルは世界最大の日系人口190万人を擁しています。世代を経るにつれて日本語離れが進んでいるものの、「それでも彼らは非日系人から“japonês(日本人)”と呼ばれてきたため、日本に親和性を持ちながら生きてきた」と拝野准教授は述べました。また、南米の経済停滞と日本のバブル期の労働力不足を背景に、日系3世までの日系人とその家族の日本での労働が合法的に可能となった1990年の改正「出入国管理及び難民認定法」施行により、南米からの日系人とその家族の来日・滞日が急増したことを説明。2020年末時点で、約20万人の日系ブラジル人とその家族が日本に暮らしており、「合法的であるがゆえに、両国の経済事情などの影響を受け、行ったり来たり(往還)を繰り返すのが在日ブラジル人の移住の特徴」と指摘しました。

司会を務めたJICA緒方研究所の長村裕佳子研究員

日系ブラジル人の教育に焦点を当てて講演した神田外語大学の拝野寿美子准教授

拝野准教授は、当初は就労と蓄財を目的とし数年でブラジルに帰国するつもりだった者が多く、1990年代に「デカセギ(decassêgui)」というポルトガル語が生まれましたが、彼らの集団意識が時代と共に変化してきたことを先行研究を参照しながら説明。2000年代には「デカセギ」から「定住(移民)」へ、2010年代には「定住(移民)」から世界各地で暮らす「在外ブラジル人の一員」へ、そして2015年には「デカセギの時代は終わった。私たちは日本にとどまることを選んだ。」という「横浜宣言」が出され、これは在日日系ブラジル人自身の手による新たな時代の幕開けだったといいます。こうした変化にともない、在日日系ブラジル人はさまざまな課題に直面してきましたが、中でも特に深刻なのが「第二世代の子どもたちの教育」です。2020年末時点で、日本には約3万人の就学年齢(7~18歳)の日系ブラジル人の子どもが暮らしていますが、日本の公立校、私立のブラジル人学校、もしくはその両方に通うといった選択肢はあるものの、親の都合で居住地が左右される子どもたちは教育の継続性が保てず、将来像を描けないことなどから、未就学・不就学の子どもたちもいるのが現状です。

日本に暮らす日系ブラジル人の子どもたちが、帰属意識や自尊心を持てないという課題をどう解決できるのか。そのための一つの希望として、拝野准教授が紹介したのが「継承ポルトガル語(PLH)」教育です。PLHとは、ポルトガル語以外を主要言語とする国・地域に移住した際、子や孫たちに継承するポルトガル語のこと。親とのコミュニケーションがとれるようになる、ブラジル帰国時に言葉の壁にぶつからないようにする、そしてPLH教育の中で日本人との交流も図り、日本社会で十分に生きていけるようになることを目指しています。拝野准教授は、「PLH教育と移民学習は、在日日系ブラジル人の子どもたちが“日系ブラジル人”であることに活路を見出し、日本とブラジル両国への帰属を確認できる場になる。また、こうした動きを受けて、日本社会も、外国籍の子どもに就学を促したり分かりやすい授業の工夫をするようになったりと変化してきた。身を削ってこの変化を促してくれたのは誰か?日系ブラジル人の子どもたちが30年近く帰属意識を持てない状況が続く理由とは?ブラジルにつながる子どもたちと共に育った日本の若者たちへの影響は?といった問いについて引き続き考えていきたい」と抱負を語りました。

質疑応答では、日系ブラジル人学生からの「在日日系ブラジル人が直面する問題と、教育の課題は?」という質問や、ブラジル人学校を運営している日本人の参加者から「日本で生まれ、日系ブラジル人コミュニティーの中で育った子どものアイデンティティーをどう大事にしながら、日本社会との接点を作っていけばいいか常に自問自答している」といった声が挙がりました。「移住史・多文化理解」というテーマが、決して学術的な研究にとどまらず、人々の暮らしに根ざしたものであることを印象づける講座となりました。

【発表資料】

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