在日ペルー人の子どもたちへの学習支援を通じた“可視化しない”現状の打開を—「移住史・多文化理解オンライン講座~歴史から『他者』を理解する~」第2回開催

2022.03.03

2022年2月2日、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)はJICA横浜 海外移住資料館と「移住史・多文化理解オンライン講座~歴史から『他者』を理解する~」をオンラインで共催しました。同講座は、JICA緒方研究所の研究プロジェクト「日本と中南米間の日系人の移動とネットワークに関する研究」の一環として開催されたものです。全6回シリーズの2回目となった今回は、JICA緒方研究所の長村裕佳子研究員の司会のもと、宇都宮大学国際学部附属多文化公共圏センター研究員/早稲田大学人間総合研究センター招聘研究員の小波津ホセ氏が「コロナ禍の南米出身家族の可視化しない現状:ペルー人児童生徒への学習支援からみえたこと」をテーマに講演を行いました。

司会を務めたJICA緒方研究所の長村裕佳子研究員

小波津氏はまず、講演のタイトルにもある「可視化しない現状」について触れ、「過去にはリーマンショックの影響で、日本で働いていた日系中南米人の派遣切りや帰国支援事業があり、彼らの存在や労働環境などの一部に社会からの関心が向けられ、可視化された。しかし、現在のコロナ禍では彼らは経済面以外にもさまざまな生活・教育面での困難を抱えているにもかかわらず、多くの問題が社会から見逃され、可視化されていない現状があるのではないか?」と提起しました。1980年代後半から日系ペルー人が出稼ぎのため日本に移住して以来、日本在住のペルー人の人口は2008年に約6万人とピークに達しましたが、全世代で帰国や帰化が進み、2020年には約4万8,000人にまで減少したことを説明。今後考えられる問題として、高齢化やペルー人団体の弱体化、そして、就労による教育の機会喪失や学歴習得の困難などで十分な教育を受けられかった人々が家庭を築く世代になったことで、その子どもたちにも負の連鎖が起こる可能性を示唆しました。

小波津氏は、ペルー及び南米出身者への支援団体の一つ、NPO法人日本ペルー共生協会(AJAPE[アハぺ])について、自身も参加している活動をふまえて紹介しました。AJAPE神奈川が活動しているのは、7,000人を超える在留外国人が住む神奈川県大和市。1994年に財団法人大和市国際化協会が設立されるなど、多文化共生社会に向けた取り組みがなされてきた地域ではありましたが、地域社会との交流がない、日本語を学ぶ機会が少ない、外国人の子どもたちの学習環境が整備されていないなど、課題が多いのが現状です。AJAPE神奈川は、2020年11月~2021年11月までの1年間、特にコロナ禍で孤立したり学習困難に直面したりしている外国人児童生徒を対象に、学習支援、母語・母文化支援、精神的支援、親への支援、カウンセリングなどの事業を実施。小学生から高校生までの61人(約7割がペルー人)に対し、日本人5人、外国籍・外国ルーツの11人の先生が一人一人に合わせた学習支援を行いました。その結果、事業終了時のアンケート調査では、半数近い子どもたちが「家での勉強時間が増えた」「テストがなくても勉強する」と回答するなど、確かな手応えがあったといいます。実際に、当時中学3年生と高校3年生だった子どもたちは、全員が高校や大学、専門学校への進学を果たすことができました。

ペルー人児童生徒への学習支援から見えた在日ペルー人の現状について講演した小波津ホセ氏

この子どもたちは、どのような家庭環境に置かれていたのか。小波津氏は、「家庭環境が良い・悪い(経済状況や親子関係の安定度など)」を縦軸に、「適した情報の収集能力が高い・低い(学校や進学に関する子どもの情報を正確に入手できるかなど)」を横軸として分析。その結果、家庭環境は良いが情報の収集能力が低い参加者が多数派でした。小波津氏は、「コロナ禍でのリモート授業への適応は難しいが、それ以前に、ペルー人の子どもたちには勉強する習慣が定着していない。それはコロナ禍以前の問題。親が仕事で多忙で面倒を見られないからなのか、それとも親世代の学歴の影響なのか、つきつめていくべきで、ここは可視化されてこなかった部分。また、高校進学が決まったらもう活動には来ないなど、支援コミュニティーから離脱していく傾向もあり、子どもが勉強しないという問題の背後にある全体像が見えていない。さらに、子どもの情報を適切に把握していない親も多かった」と振り返り、引き続き対応していく必要性を示しました。

質疑応答において小波津氏は、外国ルーツの児童という当事者だった自身の経験も踏まえて回答しつつ、「今後も学習支援の活動は続けていきたい。行政や学校などの支援が届かない部分を支援することこそ、市民団体の存在意義。ただ、生活態度が荒れている子どもにも何かしら理由があり、日本語が上手でも勉強ができるわけではないため、表面的な部分で判断するのではなく、彼らが置かれている背景まで見てほしい」と呼びかけました。在日ペルー人の子どものアイデンティティーや学校での状況など、多様な質問が投げかけられ、盛会のうちに終了しました。

【発表資料】

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