EPAインドネシア人看護師の現状と課題に迫る—「移住史・多文化理解オンライン講座~歴史から『他者』を理解する~」第4回開催

2022.04.21

2022年2月21日、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)は、JICA横浜 海外移住資料館と「移住史・多文化理解オンライン講座~歴史から「他者」を理解する~」をオンラインで共催しました。同講座は、JICA緒方研究所の研究プロジェクト「日本と中南米間の日系人の移動とネットワークに関する研究」の一環として開催されたものです。全6回シリーズの4回目となった今回は、JICA緒方研究所の長村裕佳子研究員の司会のもと、筑波大学大学院人文社会科学研究科/日本学術振興会特別研究員(DC)の村雲和美氏が「EPAインドネシア人看護師の訪日物語」をテーマに講演を行いました。

司会を務めたJICA緒方研究所の長村裕佳子研究員

村雲氏は、日本とインドネシアが2008年に締結した経済連携協定(Economic Partnership Agreement: EPA)に基づき来日したインドネシア人看護師/看護師候補者に焦点を当て、現状と課題を説明しました。彼らは1年間の日本語研修を経て、日本の病院で働きつつ、3年間で看護師の国家資格取得を目指します。2022年1月までにEPAで来日した714人のうち、158人が国家資験に合格していますが、今も日本の病院で就労しているのは24人。EPA看護師の応募には2年以上の実務経験が必要であるなど条件が高く、応募者は減少しており、国家試験の合格率も低いのが現状です。インドネシアの在デンパサール日本総領事館で勤務した経験を持つ村雲氏は、EPA看護師候補者を送り出した現場を自身の目で見たことから、彼らの“その後”を知りたいと日本やインドネシアでインタビュー調査を行っています。EPA看護師の受入れ開始から10年以上が経過し、さらにコロナ禍により病院が果たす役割も大きく変化する中、「EPA看護師の受入れから見えてきた課題を解決するには?」と問題提起しました。

村雲氏は、日本の病院で勤務する2人のEPA看護師を例に、来日した経緯や日本での働き方、キャリア形成やライフプランなど、具体的なライフストーリーを織り交ぜて紹介。その一人、Aさんは、「すぐ看護師として働けると聞いていたため、日本語を勉強して国家試験を受けなくてはならないことを来日してから知って驚いた」といいます。Aさんが参加したのはEPA開始直後、情報が交錯していた時期であったことが背景にあります。それでも、勤務先の支援体制もあり3年後に無事国家試験に合格しましたが、同期には合格できず、帰国せざるを得なかった人の方が多かったといいます。Aさんは一度インドネシアに帰国して日本企業の通訳などをしていましたが、再来日して日本の病院で働いています。また、Bさんは、准看護師資格を取得してEPA看護師の先輩が多数働いている病院に転職し、看護師国家試験にも無事合格したことで、「今後も日本でキャリアを積んでいきたい。家族にも日本で教育を受けてほしい」と夢を語ってくれたといいます。

EPAインドネシア人看護師の現状と課題について講演した村雲和美氏

村雲氏は、2人のストーリーから浮かび上がってきたさまざまな課題を挙げました。一つは、言葉の壁。EPA看護師の受入れプログラムには日本語研修が組み込まれていますが、研修や国家試験で使われるのは当然標準語。しかし、日本の地方部の病院に勤務する場合は方言を理解できなければ仕事にならず、標準語とは違う「働くための日本語」の習得が求められるという複雑さがあります。また、受入れ病院の支援体制や待遇にも大きな差があります。さらに、国家試験に合格できなかったり、合格しても日本で就労せずインドネシアに帰国したりした場合、日本滞在期間はただのブランクとして見なされてしまいます。看護師として働く場合もまた一からキャリアを築き直さなくてはいけないため、違う職に就く人が多いという現状もあります。

村雲氏はこうした課題の解決策として、ある病院の取り組みを紹介。例えば、インドネシア人看護師が必ず日本人看護師とバディを組んで動き、スタッフ同士や患者とのコミュニケーションで分からない日本語は細やかにフォローする体制を整えること、准看護士の資格をとれば医療行為を行えるため、まずは准看護師の試験を受験してから看護師の国家試験に臨むこと、勤務時間を午前中のみにして午後は勉強できる環境を整えること、などです。「つまり、病院側も大事な戦力として人材育成に取り組み、患者に寄りそう医療の提供を目指す取り組みが、EPA看護師の“就労モデル”になり得るのではないか。また、インドネシア帰国後のキャリア形成のためにも、日本政府による就労証明書の発行なども関係省庁に働きかけていきたい」と語りました。

質疑応答では、受入れ病院の体制、EPA看護師が出身地に帰国した理由、インドネシア政府のEPAへの評価、日本の関係省庁間の連携など、多岐にわたる質問が投げかけられました。医療・介護というエッセンシャルな分野を担うEPA看護師をめぐる課題は、日本に住む一人一人にとって決して他人事ではないと感じさせる講座となりました。

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