コロナ禍が外国人集住地域にもたらした変化とは?—「移住史・多文化理解オンライン講座~歴史から『他者』を理解する~」第6回開催

2022.05.12

2022年3月15日、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)はJICA横浜 海外移住資料館と「移住史・多文化理解オンライン講座~歴史から『他者』を理解する~」をオンラインで共催しました。同講座は、JICA緒方研究所の研究プロジェクト「日本と中南米間の日系人の移動とネットワークに関する研究」の一環として開催されたものです。全6回シリーズの最終回となった今回は、JICA緒方研究所の長村裕佳子研究員の司会のもと、横浜市立大学の坪谷美欧子准教授が「外国人住民の受け入れと多文化共生—コロナ禍における神奈川県の外国人集住地域の現状—」をテーマに講演を行いました。

司会を務めたJICA緒方研究所の長村裕佳子研究員

坪谷准教授が取り上げたのは、二つの市にまたがる大規模な神奈川県営団地。エスニック食材店やレストランもあり、「国際団地」としてメディアでも紹介されている団地ですが、坪谷准教授は「多国籍の外国人が集住しているというだけで、多文化共生と言えるのか?」と問いを投げかけました。この団地の研究を20年来続けてきた坪谷准教授によると、郊外にある団地は、社会福祉、セーフティーネット、自治、多文化共生が交錯する場。1971年から入居が始まったこの団地では、1980年代にインドシナ難民を受け入れ、1990年ごろからは中国残留孤児の帰国家族や南米出身の日系人の入居が増加した背景があり、現在、約3,600戸のうち、約2割を外国籍世帯が占めています。

まず、坪谷准教授は、コロナ禍前の2018〜2019年に行ったアンケート調査の結果を紹介。団地の居住者のうち外国籍世帯に属する110人から回答を得たところ、国籍別にベトナム、中国、カンボジアの順に多く、平均した来日時期は1996年、団地への入居年は2003年でした。就労面では製造業・軽工業に従事している人が多く、比較的安定的な雇用に就いている傾向がありました。また、「他に良い仕事が見つかったら引っ越すか?」という問いに対して65.2%が「どちらかといえば引っ越さない」「引っ越さない」と回答し、この団地への定住意識も高めでした。さらに、インタビュー調査結果では「自分が子どもの頃は親が忙しく、地域の人に面倒を見てもらった。だからこの団地に住んで地域に恩返しをしたい」といった声もあり、定住理由もさまざまです。坪谷准教授は、「外国人の社会的な統合という課題を考える上で、外国人移民は労働者としてのみ見られがちだが、定住意識、自治会や地域社会への参加、学校経験、母国とのつながりなど、さまざまな面を考慮することが重要」と述べました。

横浜市立大学の坪谷美欧子准教授は外国籍の人が多く住む団地に焦点を当て講演

コロナ禍により、この団地での暮らしにはどのような変化が生じているのか?坪谷准教授は、自治会、難民支援のNPO、生活支援のボランティア団体、宗教団体など、外国人住民に関係する5団体へのインタビュー調査を踏まえて現状を紹介。例えば、以前は行われていた団地の集会所での葬儀がコロナ対策でできなくなったり、コロナの影響で仕事が休みになったことで平日の昼間から路上飲みをする人々が増え、それを自治会や警察に通報する人が出てきたりと、地域社会の監視が強く働くようになったといいます。その一方で、外国人と日本人との「共助」という面では、コロナ禍という共通の危機感があったため、ワクチン接種に関する情報が素早く共有されるなどして団結が強まったり、給付金や休業支援金といったお金に関する手続きは同国人同士のネットワークを駆使して対応したりと、外国人同士の「共助」が高まったことも見えてきました。また、地域の仏教寺院やキリスト教教会などがオンラインで説法会や礼拝をするなどデジタル化が進み、そうした宗教機関を中心にした「共助」の高まりも見られました。コロナ禍で母国に帰れなくなったため、ビデオ通話などを使って母国の親戚のお見舞いや葬式に参加することが増えており、今後は病気や死の取り扱いにも変容が生まれる可能性があると坪谷准教授は指摘。「こうしたオンラインによる対面を超えた新しい共助の場や空間の広がりに今後も注目していきたい。ただ、そうしたデジタル空間から取り残されてしまう脆弱な層がいることも忘れてはならない。従来、外国人住民については、頻繁に転住する『移動性』に注目が集まりがちだったが、コロナ禍で『非移動性』が高まった。そこに光を当てることで、コロナ禍のような非常時の共助の特性や限界への理解が深まるのではないか」と締めくくりました。

質疑応答では、「ベトナム人は団地の自治会活動への積極性が高い傾向があったが、その理由は?」「外国人が多い地域に住む日本人にはどのような利点があるか?」「日本人ならではの暗黙の団地のルールをどう改善していけばいいか?」といった質問が寄せられ、共生社会に向けて多種多様な視点が必要であることを改めて感じさせる講座となりました。

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