コロナ禍で悪化した金融危機を世界はどう乗り越えるか—世界開発報告2022セミナー共催

2022.08.21

2022年5月11日、世界銀行とJICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)は、セミナー「世界開発報告(WDR)2022:公平な回復のための金融」を共催しました。

世界銀行グループは、経済、社会、環境などの分野におけるタイムリーなテーマを取り上げ、課題分析と政策提言をまとめる「世界開発報告(World Development Report: WDR)」を毎年発行しています。同セミナーでは、2022年2月22日に発刊されたWDR2022「公平な改革のための金融(Finance for an Equitable Recovery)」の内容について、世界銀行グループより、レオラ・クラッパーWDR2022執筆担当局長、金融・競争力・イノベーショングローバルプラクティスマネージャーのマヘッシュ・ウッタムチャンダニ氏、国際金融公社(IFC)でエコノミストを務めるベニアミーノ・サヴォニット氏が基調講演を行いました。

まずクラッパー氏は、「新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、さらに助長された未曾有の金融危機にあたり、各国政府は企業や家計に対し、現金給付や債務返済猶予などの財政政策で対応してきた。これらの政策はパンデミックによる経済・社会への影響を和らげる効果もあったが、国の債務超過や財政の脆弱性を高めるなどのリスクを押し上げることにもつながった」と述べました。企業や家計、金融機関、政府、中央銀行とグローバル経済の関係や、金融セクターのパフォーマンスと実体経済活動との間にある負のフィードバック・ループの関係についても指摘し、そのあおりを一番に受けるのは、中小企業や低所得者であり、それが経済格差をさらに悪化させていると主張。政策として取り扱うべき重点分野として、不良債権リスクの管理、倒産処理の法的枠組みの改良、金融アクセスの保障、公的債務の持続可能性の向上の4つを挙げました。

世界銀行グループ レオラ・クラッパーWDR2022執筆担当局長

ウッタムチャンダニ氏は、「不良債権処理について、多くの国では向こう6ヵ月でビジネスの停滞が発生すると予測され、金融機関の債権処理が喫緊の課題。破綻処理の遅れは経済回復の遅れに直結するため、その適正化が必要」と強調。政策の優先度として、倒産手続きの適正化、調停などの代替解決システムの拡充、中小企業にとって利用しやすく経済的負担の少ない債務処理手続きの整備、自然人に対する債務免除の促進を挙げ、1993年に31%だった不良債権率を1996年に9%にまで圧縮することに成功したポーランドの事例を紹介しました。

世界銀行グループ 金融・競争力・イノベーショングローバルプラクティスマネージャー マヘッシュ・ウッタムチャンダニ氏

サヴォニット氏は、コロナ禍では、多くの国で与信の基準が厳しくなり、特に中小企業について厳格化されるという新しいリスクが浮上した一方で、金融機関のデジタルトランスフォーメーションが加速するチャンスでもあったことを指摘。今後の政策課題として、与信の新たな基準となる代替データを活用する環境構築、金融商品のプロダクトデザインへのイノベーション活用、債務を返済できない場合の保証プログラムの供給などを挙げました。

国際金融公社(IFC) エコノミスト ベニアミーノ・サヴォニット氏

これらの発表を受けて、世界銀行東京事務所の大森功一上級対外関係担当官の進行のもと、慶應義塾大学の吉野直行名誉教授と、JICA緒方研究所の原田徹也上席研究員がコメンテーターとして登壇しました。

原田徹也上席研究員

吉野名誉教授は「時宜にかなったすばらしいレポート」とした上で、融資にあたり優良な中小企業を抽出する具体的なアイデアや、先進国が確立した銀行破綻処理の開発途上国への適用の可能性について質問を投げかけ、債務の持続可能性を検討する際には国債の供給と需要の側面についても考慮する必要があるといった複数の論点を提示しました。原田上席研究員は、「ロシアによるウクライナ侵攻前に書かれたレポートだが、ウクライナの状況を受けて、メッセージの調整は必要か」、また、「世界銀行などの努力により公的債務の透明性は上がってはきているものの、まだ不十分。加盟国にさらなるデータ提出を要求できるか、また義務違反があった時の罰則の設定は可能だと考えるか」と述べ、会場からのコメントも交えて活発な意見交換がなされました。

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セミナー 「World Development Report 2022: Finance for an Equitable Recovery」

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