ポスト・コロナ時代にアフリカ経済の構造転換を目指して—アフリカ経済構造転換センターとウェビナーを共催

2022.09.14

2022年6月22日、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)とアフリカ経済構造転換センター(African Center for Economic Transformation: ACET)は、ウェビナー「ポスト・コロナ時代のアフリカ:経済構造転換のための優先的政策課題の再設定」を共催しました。アフリカで新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる影響からの回復を促進し、持続可能でレジリエントな社会・経済を構築するには、どのような政策的対応が必要なのでしょうか?本ウェビナーでは、アフリカの経済構造転換に関するACETとJICAによる政策志向型研究プロジェクトの成果に基づき、この問題を議論しました。また、2022年8月にチュニジアで開催された第8回アフリカ開発会議(TICAD8)での議題について、事前に理解を深める場にもなりました。

まず、ACETを創設したキングスレー・イェボア・アモアコセンター長が開会のあいさつで「アフリカ諸国の大半がパンデミックからの回復で苦境にある」と説明しつつ、「レジリエントな経済には構造転換が不可欠であるため、アフリカ内外の経験から経済の構造転換についての教訓を得ることが重要である」と述べました。

ACETを創設したキングスレー・イェボア・アモアコセンター長

続いて、JICAアフリカ部の増田淳子部長は、2020年にアフリカがコロナ危機を克服できるよう支援するためのビジョン形成を目的として始められた本研究プロジェクトの概要を紹介し、ポスト・コロナ時代のアフリカ開発では経済の構造転換と人間の安全保障が重要な概念になるという認識を示しました。

JICAアフリカ部の増田淳子部長

次に、ACETのロベルト・J・ティバナ研究ディレクターが、“Growth with DEPTH”(diversification in production and export, export competitiveness, productivity increases, technology upgrading, and improved human well-being:生産・輸出の多様化、輸出競争力、生産性向上、技術の進歩、人間の福祉の改善)の枠組みに基づき、成長、構造転換、レジリエンスの関係を説明しました。ティバナ氏は、一国の経済のレジリエンスは当該国の経済構造転換の度合いに左右されるとし、一貫性のある産業政策を定めること、その政策を推進する政策推進機関を育てること、市場の失敗に対処するために民間セクターとの連携の仕組みを確立すること、産業政策推進に必要な政治的インセンティブの問題を解決することが必要だと強調しました。

ACETのロベルト・J・ティバナ研究ディレクター

続いて開催されたパネルディスカッションには、JICA緒方研究所の大野泉シニア・リサーチ・アドバイザーが参加。パンデミックがアフリカ経済に与えた影響について尋ねられると、「これは保健上の危機だけでなく、世界規模の社会・経済的危機でもある」と述べ、その影響はサービス業で最も大きかったものの、数々の産業に及んでいるとしました。さらに、「アフリカは欧米諸国よりうまくコロナ危機に対処してきたものの、以前からある各国特有の構造的問題と大陸全体でのワクチン不足により、回復が遅々として進んでいない」と指摘しました。また、効果的な産業政策づくりに不可欠な要素として、官民連携、指導者層による強力なコミットメント、各産業を所管する中核的な機関の育成、開発戦略の多様性を挙げました。またアフリカ各国は、グリーンな工業化の機会を活用すること、適切な価格での取引を要求できるよう原材料に付加価値をつけた製品をつくること、独自の国内産業を発達させること、グローバル・バリュー・チェーンの中でアフリカが適正なシェアを確保できるようにアフリカ大陸自由貿易圏(African Continental Free Trade Area : AfCFTA)のような地域連携を活用することが可能だと述べました。さらに、若年層の雇用の重要性に関しては、JICAがアフリカの若手起業家向けに実施しているスタートアップビジネス支援にも言及しました。

JICA緒方研究所の大野泉シニア・リサーチ・アドバイザー

米タフツ大学のマーガレット・マクミラン教授(経済学)は、パンデミックによる大きな打撃として、国際社会のリソースが枯渇したことと、アフリカ各国で経済の中核を担う中小企業の倒産による影響を挙げました。また、アフリカの多くの国で経済回復が遅れている大きな要因は、アフリカ経済のインフォーマルな性質や、ロックダウンとソーシャルディスタンシングの起業家への影響、指導者の意志決定を支える情報の不足・誤りだと強調。さらに、経済のレジリエンス構築のグッドプラクティスに関しては、アフリカやその他の地域での構造転換やその欠如から学ぶことができるとし、アフリカとアジアを比較するとともに、エチオピアとタンザニアの製造業における雇用急増を引き合いに出しながら「中小企業のことを真剣に考えるべき」と述べました。ほかにも、さまざまな業種・部門が直面する課題に対応するため、各国の事情に合わせた戦略を講じる必要性も指摘しました。

米タフツ大学のマーガレット・マクミラン教授

国際労働機関(International Labour Organization: ILO)のリード・エコノミストであるケン・シャワ氏は、コロナ危機は多くの不確定性と企業の倒産をもたらしたとの見方に同意しつつも、一部の国では脆弱な人々や企業への新たな支援策を実施する好機にもなったと説明しました。パンデミックによって、政府とコミュニティー間や労使間での対話、中小企業への政府融資、減税が促されたといいます。さらにシャワ氏は、アフリカには「若者を置き去りにしない」政策プログラムが必要だと強調し、その主な手段として、より良い教育やより高度な技能、社会的保護を若年層に提供することを挙げました。そして、ジェンダーに基づく暴力を排除し、賃金の公平性を確保し、意志決定の過程へ女性を参画させるためにも、同政策プログラム全てを社会的、経済的対話によって支えるべきだと指摘しました。

国際労働機関でリード・エコノミストを務めるケン・シャワ氏

最後に、モデレーターを務めたディンポ・レカウ氏がパネリストに対し、アフリカ経済の構造転換を推進し、レジリエンスを構築するために不可欠と考える優先的な政策を3つずつ挙げるよう求めました。マクミラン教授は「アフリカ各国政府は、どうすれば海外からの援助への依存を軽減できるか考える必要がある」と述べ、自国でのヘルスケア産業とアフリカ域内貿易の構築をより上位の優先事項に据えるよう呼びかけました。大野シニア・リサーチ・アドバイザーは、アフリカ各国政府は民間セクターとの関わりを深め、デジタル分野の人材開発への投資を拡大し、中小企業育成を含む企業の能力構築に注力すべきだと強調しました。シャワ氏は、全ての人のための社会的保護と、特に若年層と女性に重点を置いた雇用促進、インフォーマル経済からフォーマル経済への構造転換を挙げました。

質疑応答では、「製造業の促進を後押しすべき主体は誰か?」という質問が挙がったほか、「アフリカでは頭脳の流出が課題。高等教育を受けた人や若年労働者がアフリカの開発を重視せず、より良い生活を求めてアフリカの外に目を向けている」とのコメントもなされ、活発な議論が続きました。

関連動画

Webinar | Africa after COVID-19: Resetting Policy Priorities to Transform Economies(ACET YouTube)

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