パラグアイ日系社会の若手世代と国の発展を考える─プロジェクト・ヒストリー出版記念セミナー開催

2022.09.15

2022年7月27日、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)は、プロジェクト・ヒストリー『パラグアイの発展を支える日本人移住者—大豆輸出世界4位への功績と産業多角化への新たな取組み』のスペイン語版として2022年7月に発刊された『Los Inmigrantes Japoneses y su Contribución al Desarrollo del Paraguay – Contribución al Posicionamiento del País como el Cuarto Mayor Exportador de Soja en el Mundo y Nuevas Iniciativas para la Diversificación Industrial』の出版記念セミナーをオンラインで開催しました。

冒頭、JICAパラグアイ事務所の福井康所長が開会のあいさつに立ち、同書のテーマである大豆の輸入国から輸出国へと変貌を遂げたパラグアイの軌跡と、80年以上にわたりその発展に貢献してきた日系社会や日本の協力について振り返りました。

続いて、パラグアイ日系・日本人連合会の檜垣竜介会長は、「多くの日系二世にとって日本語を読解することは決してたやすくないため、スペイン語版の発刊は日系社会の若者にとって有益だ。近年、日系社会の若者を中心に、パラグアイの発展への貢献や将来の夢などをテーマにシンポジウムを開催している。日系社会の歴史を学ぶためにも、同書からぜひ多くを学んでほしい」と述べました。

パラグアイ日系・日本人連合会の檜垣竜介会長

日系農業協同組合中央会の久保守会長からは、今日の発展に至るまで日系移住者が歩んできた道のりは非常に厳しいものであったことに触れた上で、大豆生産における成功は試行錯誤の結果ではあるものの、永久的に続くものではないと指摘。「パラグアイのますますの経済発展に貢献するためには、工業化や生産作物の多様化を推し進める必要がある。若い世代にとっての挑戦だ」と話しました。

日系農業協同組合中央会の久保守会長

Partícipes del Nuevo Mundo(われら新世界に参加す)—日系二世、三世から見た歴史と未来

一般財団法人ササカワ・アフリカ財団の北中真人理事長をはじめ同書の著者4人による書籍紹介に続いて、パラグアイ日系農業技師協会の会長でありA-Fines Consultora S.R.L.社のディレクターである森谷ヘンリー氏がモデレーターを務めたトークセッションが行われ、著者に加えてパラグアイ日系社会の若手世代から3人の代表者が登壇、コメントしました。

トークセッションにはパラグアイ日系社会の若手世代から3人の代表者が登壇

ラパス市議員でありラパス農業協同組合幹部でもある伊藤伸二氏は、日系人による不耕起栽培の導入から環境保全型畑作農業への移行に伴う技術が社会全体で受け入れられ、国の発展にもつながったと話しました。さらに、「大豆生産における競争の高まりに伴い、農家が置かれる環境は変化する。パラグアイや日系社会のさらなる発展には、直面した課題に対処する方法の模索に加えて、日系社会のみならずパラグアイ社会全体の調和が必要」と指摘しました。

パラグアイ日系農業技師協会の久保田莉花副会長は、「同書には日系社会がパラグアイの持続可能な発展に引き続き貢献するためのアイデアが散りばめられている」として、同書からいくつかフレーズを抜粋して紹介。また、1945年以降の耕作地の拡大とそれに伴う森林面積の減少について紹介した上で、「数十年前からこの傾向が比較的緩やかになっている背景には、環境保全型畑作農業の導入などといった日系社会の積極的な貢献がある。経済的、社会的発展と環境保全のバランスを重視し、持続可能な開発を進めるために、日系社会として知識や技術の提供、革新などを通じて貢献していく」とコメントしました。

ZeDron E.A.S.社の善村真幸ジェネラルマネージャーからは、同社で導入しているドローンなどの農業ツールについて説明。病気や害虫など、作物の状態を把握するために活用されており、その他にも多くの活用の可能性を秘めていると話しました。また、「現在は情報とデータの時代であり、持っている情報を現場で適用し、単位面積当たりの生産性を向上させることが重要。私自身、新しい技術を適用すること自体を非常に面白いと感じている」と述べ、農業における技術革新の重要性について触れました。

さらなる発展に向けて何をすべきか、共に考える

代表者3人による発表に続き、森谷氏から同書の著者の一人であるJICA緒方研究所の細野昭雄シニア・リサーチ・アドバイザーに対し、「新規産業や新規ビジネスの立ち上げにあたり、起業家やパイオニアをモチベートするために他の国ではどのような対応をしているのか。パラグアイで適用できる可能性はあるのか」と質問が投げかけられました。これに対し細野シニア・リサーチ・アドバイザーは、「ジョセフ・スティグリッツ教授も強調されているように、人々の学習能力が非常に重要であり、革新の扉を開くカギとなる」と述べるとともに、「職場での学習(learning at work)」として「カイゼン」にも革新のヒントがあるのではと示唆しました。続いて、「包括的で持続可能な発展を実現するために、どのように日系社会の若手世代を刺激できるのか」という問いに対し、JICAボリビア事務所の伊藤圭介所長は、「慣れ親しんだ快適なコミュニティーを離れ、『新しい世界』に足を踏み入れることで刺激を受け、新しいアイデアが生まれるのではないか」と答えました。これを受け、細野シニア・リサーチ・アドバイザーからも、好事例として、かつて多くの日系人がコロニアス・ウニダス農業協同組合(Cooperativa Colonias Unidas)に参加し、相互に学ぶことで良い刺激を生み出していたことについて言及しました。

JICA緒方研究所の細野昭雄シニア・リサーチ・アドバイザー

質疑応答では、参加者から著者に対していくつかの質問が投げかけられました。例えば「日系社会の境界を越え、包括的な開発を促進する必要性があるが、現状と未来についてどのように見ているのか」という質問に対し、JICA調達・派遣業務部の藤城一雄次長が回答。「これまで日系社会はパラグアイ社会との共生に努めてきており、その結果、社会的、経済的な境界はすでに超えている。将来を見据え、次世代である日系社会の若手世代は、グローバル化、複雑化が進む国際社会に対応していくことが必要」と指摘しました。

閉会あいさつでは、ラウル・フロレンティン=アントラ駐日パラグアイ大使より、著者4人の発表内容に触れつつ、「歴史を知らずして未来はない」とコメント。日系社会について、パラグアイにおける経済発展への貢献に加え、重要な価値観をもたらしているとして、日系社会の若手世代に期待を寄せました。また、JICA横浜センターの中根卓所長は、パラグアイにおける移住史を含む150年以上にわたる日本人の海外移住の歴史をより多くの人々に知ってもらうべく2022年4月にリニューアルオープンした、自身が館長を務める海外移住資料館について紹介。最後に、JICA中南米部の小原学部長より、「感染症や政情不安などがまん延する不確実な現代社会において、若者が率先して新しいアイデアを生み、活躍することが重要。日系社会の発展を通じてパラグアイと日本がより強い信頼の絆を築けるよう、引き続きJICAとして貢献していきたい」と締めくくりました。

ラウル・フロレンティン=アントラ駐日パラグアイ大使

関連動画

Seminario Conmemorativo “Los inmigrantes japoneses y su contribución al desarrollo del Paraguay”

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