ポスト・コロナ時代のアフリカ経済で構造転換とレジリエンス構築を実現するには—TICAD8サイドイベント

2023.01.11

国際協力機構(JICA)とアフリカ連合開発庁(AUDA-NEPAD)、アフリカ経済構造転換センター(ACET)は、第8回アフリカ開発会議(TICAD8)でオンライン・サイドイベントを共催しました。TICADは、日本の主導で始まったアフリカ開発に関する首脳級国際会議です。JICAとACETの共同研究「ポストコロナにおけるアフリカ経済の強靭化と構造転換のための新政策アジェンダ」を中心に据え、同名のサイドイベントを開催しました。JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)からは、大野泉シニア・リサーチ・アドバイザーが第2部のパネリストとして参加しました。

JICAの田中明彦理事長は開会のあいさつで、近年のアフリカ経済の歩みを概観しました。JICAとACETは輸出産品や経済構造の多様化、労働生産性、技術の進歩、ウェルビーイングといった観点から、アフリカの経済構造転換の問題を解明する共同研究を実施しており、田中理事長はその概要にも触れました。また、その研究から、ガーナ、ケニア、モザンビーク、ルワンダ、チュニジア、ザンビアでの事例を引用し、今日の厳しい国際情勢下でアフリカ経済のレジリエンスを高める具体的手段として、産業政策の必要性を示しました。

JICAの田中明彦理事長

次に、AUDA-NEPADのナルドス・ベケレ=トーマス長官から歓迎のあいさつを頂き、「アフリカで待望される経済構造転換とレジリエンス構築に向け、どのように経済成長を加速させ、経済を拡大させ、経済のステークホルダーの増加や必要な雇用創出といった当面の課題に対処していくのか」という問題提起がありました。同長官は、アフリカには若年人口の増加に合わせ年間1,300〜1,500万人の新規雇用が必要だと説明しました。また、アフリカ経済の活性化においては民間セクターとの協働が肝心であると指摘しました。優先的政策課題の見直しを通じて苦境の克服を目指し、共に問題解決策を見いだすことが重要になると述べました。

AUDA-NEPADのナルドス・ベケレ=トーマス長官

セッション1:持続可能な成長のための経済構造転換

セッション1では、ACETのロベルト・J・ティバナ研究ディレクターが、研究報告書「ポスト・コロナ時代のアフリカにおける経済構造転換とレジリエントな経済の構築:優先的政策課題の再設定」の概要を説明しました。同研究ディレクターはこの研究報告の結論として、アフリカでのレジリエントな経済の構築のためには経済構造転換が鍵になることを説明しました。新型コロナウイルスのような外的ショックによる悪影響をうまくしのぎ、素早く、力強く回復するために、アフリカ諸国は経済構造転換を支える政策を優先し、その実行に着手しなければなりません。例えば、経済のさらなる多様化や、輸出競争力の向上、労働生産性をはじめとする生産性の向上、高付加価値製品・サービスの生産・輸出拡大に向けた技術の進歩といった政策です。具体的には、アフリカ諸国は(1)経済構造転換を優先政策に位置付ける、(2)一貫性のある産業政策を定める、(3)民間セクターと連携する、(4)デジタル技術とイノベーションに投資する、(5)開発の政治的インセンティブの問題を解決するべき、という5つの提言が同報告書に盛り込まれています。

ACETのロベルト・J・ティバナ研究ディレクター

続いて、コロンビア大学の教授であるジョセフ・スティグリッツ氏がティバナ氏の発表にコメントしました。スティグリッツ氏は、持続可能な成長に構造転換が必要なことを同報告書が強調している点に賛同しました。さらに、アフリカの経済構造転換で考慮すべき大きな潮流として、気候変動、人口動態、都市化、世界的な製造業雇用の減少、いわゆる「新冷戦」、新自由主義の終焉、産業政策における新たな重点を取り上げました。製造業の衰退と域内の人口増加を踏まえ、アフリカはサービス業と「雇用創出型イノベーション」に注力しなければならないと述べました。最後に、アフリカへの3つの助言として、過剰な債務に注意することと、コロナワクチン調達の妨げにもなった知的財産制度の改正に取り組むこと、民主主義国を開発パートナーに選ぶことを挙げました。スティグリッツ氏は民主主義国との協力が重要な理由について、「より広範で、より人間志向の開発につながりやすい」点を強調しました。

コロンビア大学のジョセフ・スティグリッツ教授

セッション2:アフリカの若年人口の増加に向けた雇用の創出

第2部では、大野シニア・リサーチ・アドバイザーと、AUDA-NEPADのナレッジマネジメント・プログラム評価ディレクターを務めるマーティン・ブワリャ氏、国際労働機関(ILO)のシンシア・サミュエル=オロンジュオン事務局次長補兼アフリカ総局長がパネルディスカッションを行い、スティグリッツ氏が議論を総括しました。

モデレーターのキンリー・サーモン氏(英エコノミスト誌アフリカ特派員)はまず、アフリカには多様な国々があり、課題や強みが互いに異なることを念頭に置きつつ、10年前と比べたアフリカの経済構造転換の現況をブワリャ氏に尋ねました。ブワリャ氏は、多様であることが不利とは限らないと応じ、持続可能でレジリエントな成長を生み出す能力のほうが成長そのものより重要だと指摘しました。また、そうした成長を生み出すための必須事項として、アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)のような枠組みを活用することや、スティグリッツ氏が言及した大きな潮流を考慮すること、アフリカの規範や価値観について深く考えることを挙げました。さらに、気候変動や新型コロナウイルス、世界規模の対立・紛争の影響は、成長だけでなく、アフリカの人々の生活にまで及んでいると指摘。「そうした事態は受け入れられない」と述べました。ブワリャ氏は、経済インフラや教育、保健、水、エネルギーの安全保障に最善の投資を行うことが極めて重要であると訴えました。

AUDA-NEPADのナレッジマネジメント・プログラム評価ディレクターを務めるマーティン・ブワリャ氏

続いて、サーモン氏は大野シニア・リサーチ・アドバイザーに対し、スティグリッツ氏が言及した「早すぎる脱工業化」に向けた動きの中、アフリカが労働市場の生産性を高め、若年層を労働市場に吸収する方法を尋ねました。大野シニア・リサーチ・アドバイザーは、デジタル化や情報通信技術(ICT)、グリーン産業、農業関連産業を含んだ広義で工業化をとらえ、スティグリッツ氏の指摘はあるが、アフリカが二次産業化を進めることは依然重要だと応じました。さらに、より高度化し、知識集約性と生産性を高めたサービス業への移行が世界各地で進んでいるが、アフリカでは同じ変化が起こっていないため、製造業への注力を続ける必要があると説明しました。

JICA緒方研究所の大野泉シニア・リサーチ・アドバイザー

大野シニア・リサーチ・アドバイザーは、農業について、商業化とデジタル技術の活用を通じて生産性を高める必要があると指摘。また、サービス業の成長の大半はインフォーマル・セクターで生じているため、ここでも生産性向上が必要だと述べました。そして「工業化の範囲は部品製造に代表されるような製造業を超えて、さらに広がりつつある。背景には、技術の進歩やSDGs(持続可能な開発目標)への関心の高まりがあり、そのSDGsでは、気候変動対策や社会配慮、社会問題解決型のビジネスが念頭に置かれている。そのため、取り組むべき新たなチャンスが生まれている、というのが、私の考えだ。しかし、だからと言って製造業を切り捨てるべき、という意味にはならない」と論じました。

次に、アフリカの若年層に十分な量と質の雇用を創出する方法について、ILOのサミュエル事務局次長補兼アフリカ総局長は、「地域統合は、構造転換だけでなく若年層への適正雇用創出の面でも、アフリカにとって非常に重要な機会だ」と述べました。政策面では、若年層に向けた質の高い雇用の創出に関する議論を、実行性を伴った国家開発計画によって支えることや、そうした雇用の創出に政府全体で取り組むことを呼びかけました。また、労働市場ガバナンスの重要性を強調したほか、開発パートナー間の一貫性が必要だと指摘。さらに、若年層に影響する政策の形成に若者を参加させなければならないと語りました。

ILOのシンシア・サミュエル=オロンジュオン事務局次長補兼アフリカ総局長

サーモン氏は、大野シニア・リサーチ・アドバイザーの発言に基づきスティグリッツ氏に意見を求め、「雇用の供給源として製造業にもっと期待していいのか、それともサービス業一辺倒でいくべきなのか」と問いました。スティグリッツ氏は「製造業は終わったわけではない。人口増加に対応する雇用創出として、製造業を頼れないということだ。アフリカの製造業には拡大の余地があり、十分な賃金と十分な雇用の創出だけでなく、広範な技術移転といった点でも、製造業の拡大は重要な役割を担いうるという点に同意する」と説明。一方、「必然的にサービス業と農業が重要になるため、戦略の焦点はこれらの産業の生産性向上に当てるべきだ」と述べました。

サーモン氏は大野シニア・リサーチ・アドバイザーに対し、「開発パートナーや国際協力機関といった外部者には、どのような役割があるか」と尋ねました。大野シニア・リサーチ・アドバイザーは、開発パートナーは、(1)具体的な開発経験に基づき知識を共有する、(2)意欲と強いコミットメントをもつ[アフリカの]指導者に対し、構造転換計画の立案・実施にかかる助言とハンズオンの政策支援を提供する、(3)産業開発や農業の変革において中核となる機関の能力向上を支援する、(4)ACETのようなシンクタンクは、構造転換に取り組む指導者が連帯し、互いの経験に学び、刺激し合う場として、ナレッジフォーラムを開催することができる、と回答しました。

その後もさらなる質問と回答が続き、活発な議論が交わされました。

関連する研究者

\SNSでシェア!/

  • X (Twitter)
  • linkedIn
トピックス一覧

RECOMMENDこの記事と同じタグのコンテンツ