ナレッジフォーラム「複合リスク下における途上国の債務問題を考える」を開催

2023.03.03

JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)は、ナレッジフォーラム「複合リスク下における途上国の債務問題」をウェビナー形式で2023年2月8日に開催しました。債務危機に陥ったスリランカの最新情勢、中国による途上国融資の現状、債務問題に関連するJICAの取り組みなどを紹介しました。

開会にあたり、JICA緒方研究所の山中晋一研究所顧問からの開会挨拶で、「コロナ禍の影響が残る中で、ロシアによるウクライナ侵攻に伴う資源および食料価格の高騰、インフレとそれに伴う金利上昇やドル高等、国際社会はさまざまなリスクが複合的に絡み合う極めて不安定な状況に陥っている。特に対外依存度の高い途上国では債務問題が顕在化している」と述べました。

ナレッジフォーラム「複合リスク下における途上国の債務問題を考える」の登壇者ら

現在の途上国債務問題の概要

最初にJICA緒方研究所の原田徹也上席研究員が登壇しました。「コロナ禍以降の複合リスク下では、財政の悪化や交易条件の悪化による外貨準備の減少などに加え、財政規律がもともと脆弱な国が金融市場から厳しい見方をされて追加資金調達ができなくなり、デフォルトに陥ることが多い。また、現在の債務危機の背景には、2010年代以降の途上国による債券発行の増加と中国による融資の拡大がある」とした上で、2020年に導入された債務国救済メカニズム「コモンフレームワーク」を取り上げ、チャド、ザンビア、エチオピアなどが適用を申請していることを紹介しました。

そして「時間がかかるという批判もある債務再編プロセスも、これまでの教訓から、今後は改善されていくだろう。また債務の透明性向上に関して、借入資金を用いたプロジェクトの収益性などを見極めていくことも必要になってくるだろう」と述べました。

JICA緒方研究所の原田徹也上席研究員

デフォルトが発生したスリランカの最新事情

JICAスリランカ事務所の山田哲也所長は2022年4月にデフォルトに陥ったスリランカの状況を報告。「2021年には同国人口の13%であった貧困層が2022年には26%に増加するとともに、栄養状態が急激に悪化して世界最悪の水準に近づくなど、人道危機ともいえる状況が広がっている。スリランカは1950年代から財政収支が赤字続きでIMFの支援を何度も受けているが、今回の危機の要因は、2019年に実施された大型減税、同年のイースターテロ、その後のコロナ禍による観光収入・労働者送金の激減、外貨建て債券や二国間公的対外債務の約5割を占める中国からの借り入れの返済負担増、IMFへの支援要請の遅れなどだ」と指摘しました。

そして「今後は痛みを伴うが、増税による歳入の強化などを行いながら、IMFの支援プログラムを活用して再生への道を進んでいってほしい」との期待を述べました。

JICAスリランカ事務所の山田哲也所長はオンラインで参加

中国の途上国融資の現状

JICA緒方研究所の北野尚宏客員研究員(早稲田大学教授)は、中国輸出入銀行のソフトローンを中心に中国の途上国融資について紹介しました。「中国は2004年から地域協力枠組みを利用したソフトローンによる資金協力を表明しており、習近平政権が掲げた『一帯一路』構想もあり表明額は増加を続けたが、過剰な貸し付けが債務の持続性に問題を生じさせることを認識して政策調整を行い、2019年以降表明額が限定的になっている。中国自身が国際社会における評判を考慮したのではないか」と述べました。

今後について、「中国もこうした債務問題を抱えるのは初めてのことで経験不足。試行錯誤しながらIMFや世界銀行、また二国間レベルでもさまざまな協議をしつつ慎重に進めているようだ。一方、途上国側には大きなインフラ資金ニーズがあるため、融資にブレーキをかけてはいるが、ソフトローンに無償援助や無利子借款などをブレンドし、より譲許的な条件にして供与する可能性もある。また、アカウンタビリティの向上も重要になる。国際的な評判とともに、中国は自国の国民に対してどのような対外活動をしているかをしっかり説明していく時期にきているのではないか」と分析しました。

JICA緒方研究所の北野尚宏客員研究員

途上国における公共財政管理の課題

続いてJICAガバナンス・平和構築部の坂野太一国際協力専門員が、公的債務管理に焦点を当てて、途上国における公共財政管理の課題とJICAの協力についてプレゼンテーションを行いました。

「債務管理局は、議会から提示される資金需要を踏まえ、財務省財政局や中央銀行等の関連機関と連携しつつ、借入や返済の方法を検討する部局である。債務管理局の業務は多岐にわたるが、借入額は少なくても業務内容は基本的に同じであり、多くの国で職員数が不足している。さらに島嶼国や人口規模の小さい国の場合、極端な人手不足により、やるべきことができていない国も多い。そして、各国ともコロナ禍対応で債務が積み上がり、その返済対応が大きな課題となっている。しかし債務管理局は債務全体を『管理』する立場にあり、日々の返済に悩むだけではなく、効率的な資金の借入などの前向きな業務に取り組んでいくことも重要だ。また、債務管理だけでなく、国家財政の基盤強化のための財政余地の拡大にも取り組む必要がある。このため、JICAは、税務行政支援や公共投資管理能力強化にも力を入れている」と報告しました。

JICAガバナンス・平和構築部の坂野太一国際協力専門員

スリランカの今後と中国の真意は

フォーラム参加者から寄せられた多数の質問を基に、最後に質疑応答が行われました。「スリランカの人々は今後痛みを伴う改革をやっていく準備はあるのか」という問いには、山田所長が「『もらうことに慣れてしまっている』と言われるスリランカ人だが、今回は大統領はじめ国会議員、政治家レベルのコミットメントを感じる。変わらなくてはいけないと考えているビジネスマンも多い。しかし足元では人道危機的な状況が広がっており、JICAを含めドナー全体が緊急支援的な対応にも力を入れている」と応じました。

「債務再編交渉などで、中国政府は世界銀行や国際機関の債務も削減すべきだと発言しているが、その真意は」という問いには、北野教授が「中国は経験不足で非常に慎重な対応をしている。もう一つの要素は国内の世論。国内に貧しい人が多くいる中でなぜ他国を支援しなければならないかという世論があるようだ。国内世論の反発を招くことも中国政府は気にしているのではないか」と答えました。

関連動画

複合リスク下における途上国の債務問題(第15回ナレッジフォーラム)【JICA緒方研究所:セミナー動画】

関連する研究者

\SNSでシェア!/

  • X (Twitter)
  • linkedIn
トピックス一覧

RECOMMENDこの記事と同じタグのコンテンツ