JICAとIMFによる合同国際会議「開発途上のアジアにおけるパンデミックからの復興:健全な財政運営による包摂的で持続可能な成長」を開催

2023.05.25

JICAと国際通貨基金(IMF)は合同国際会議「発展途上のアジアにおけるパンデミックからの復興:健全な財政運営による包摂的で持続可能な成長」を2023年2月14日に開催しました。日本を含むアジア13ヵ国の代表がJICA市ヶ谷ビルに集い、新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)のパンデミックやロシアによるウクライナ侵攻、エネルギー・食料価格高騰、気候変動による複合的危機からの経済回復に向けた財政・金融政策を議論しました。

JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)からは、広田幸紀客員研究員(埼玉大学人文社会科学研究科教授)と牧本小枝主席研究員、原田徹也上席研究員が各議題の発表者や討論者として参加しました。

パンデミックによる経済後退と出口段階における財政政策

最初のセッションでは、パンデミックに伴い、アジアの開発途上国で生じた財政面の課題が議題となりました。IMFのクリシュナ・スリニバーサン・アジア太平洋局長とビトール・ガスパール財政局長は、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)達成の道のりにおける資金ギャップや各国経済が抱える後遺症といった課題を含め、アジア各国・地域の見通しを概説しました。両者は、複合的リスクへの緊急対応と中期的な財政持続性のバランスをとりながら、長期的な成長に向けて、人材育成や社会的保護、気候変動対策、デジタル化といった分野での構造改革や財政政策を進めていくことを提言しました。また、グリーントランジションを開発戦略に組み込むための包括的アプローチについても議論しました。

JICA緒方研究所の広田幸紀客員研究員(埼玉大学人文社会科学研究科教授)

広田客員研究員は、2021〜2030年にアジア45ヵ国で必要となる社会インフラ(教育、医療、公共住宅、政府庁舎)向け資金需要の試算を発表しました。この研究では、コロナ対応に要する追加的資金も試算しています。それによると、毎年必要とされる資金は1兆7,000億ドルですが、コロナ対応を想定したシナリオでは1兆8,000億ドルに増加します。これらの金額には、同様の試算に通常含まれていない大規模修繕・更新需要も組み込んでいます。最後に広田客員研究員は、土地開発利益還元(Land Value Capture: LVC)手法の利用拡大や、施設の多目的使用による投資効率の改善など、試算された膨大な資金ギャップに対処するための政策を提言しました。

アジア太平洋地域での強靱なユニバーサル・ヘルス・カバレッジに向けた投資の拡大と改善

次にユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)に関するセッションでは、まずJICAの戸辺誠国際協力専門員(保健財政・保健システム)が発表を行いました。戸辺専門員は、UHCがSDGs達成に必要不可欠な条件であることを説明し、強靱なUHCを目指す保健投資の概況を示しました。さらに、保健投資が多くの成果をもたらすことや、貧困層や脆弱層を守るために、その拡大と合理化を促す役割が財務省にあることを各国の財務大臣に伝えました。

牧本主席研究員は、日本政府による「新型コロナウイルス感染症危機対応緊急支援借款」の分析結果を紹介しました。同借款は、開発途上国でパンデミック中に生じた緊急のニーズに対処し、経済活動を促進するために実施された施策です。パンデミック初期の緊急対応と復興期の支援として、各国に平均2億1,700万ドル(2020年の各国政府一般歳出の平均2.6%に相当)が貸し付けられました。牧本主席研究員は一連の貸付について、パンデミックによるさまざまな社会セクターでの政府支出ニーズ急増に対応する短期的な資金ギャップのつなぎとして寄与しただけでなく、持続可能で包摂的な社会の実現に向け、中・長期的視点からの保健システム強化を促す役割も果たしたと説明しました。

JICA緒方研究所の牧本小枝主席研究員

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)に関するセッションの参加者ら

続いて、カンボジア保健省のオー・バンディーン長官が自国のコロナ対応で得た経験や教訓を説明しました。オー・バンディーン長官は、コロナ禍からの社会・経済の回復度合いを示す「日経コロナ回復指数」で同国が上位に躍進するまでの概略を示し、保健政策と経済政策は両輪として進めるべきだと強調しました。カンボジア経済財政省のパム・フオット副長官は、パンデミック前後の経済実績を引用し、同国経済が急速に復興してきたことを示しました。また、それは、復興、改革、強靱性向上も目指す統合的アプローチでの政策実施により達成されたと説明しました。

議論を振り返って

会議の総括としてラウンドテーブルが行われました。フィリピンのベンジャミン・ジョクノ財務大臣によると、同国はパンデミック中に生じた財政面の課題の克服策として、中央銀行を通じた政府機関への総額約6,500億ペソの貸付を行いました。この措置は、各官庁のパンデミック中や収束後の基礎的必需品の確保に大いに役立ちました。

JICA緒方研究所の原田徹也上席研究員

モンゴル銀行(中央銀行)のハグワスレン・ビャドラン総裁は、パンデミックや、政府が導入したパンデミック対策により、中国向けが80%を占める輸出への依存に影響が及んだことや、国境閉鎖が劇的な物価急騰につながった経緯を説明しました。

原田上席研究員は、パンデミックやその後の経済危機からの復興プロセスにおいて、教育や医療、インフラ開発での遅れが成長や生産性に及ぼす長期的な悪影響、いわゆる「傷跡効果(scarring effects)」に対処する必要があると指摘。財政余地が限られていることを踏まえ、社会セクターに政府支出を割り当てる際の費用効率の重要性を強調しました。また、債務危機から得られた教訓として、債務管理では借入額だけでなく借入金の使途となるプロジェクトの内容も重要だと述べ、借款の一部が政治目的で使われ、十分な成果が上がらなかった事例に言及しました。

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