JICA緒方研究所

ニュース&コラム

気候変動問題への貢献を目指す

2011年2月15日

「開発途上国における気候変動適応策と緩和策の研究」

気候変動問題に対してJICA研究所では、国内外の第一線で活躍する研究者・実務者らとともに、「適応策」および「緩和策」に関する研究プロジェクトを実施しています。日本のみならず、世界の援助潮流への貢献を目指した本研究について、その概要やこれまでの成果などについて紹介します。


(図)バングラデシュにおける6月から9月における降水量の1979年から2003年の平均値の実測値(左)とシミュレーションによる再現値(右)

JICAは気象研究所の協力を得て、アジア諸国の担当官を招聘し、気候変動予測モデルの解析能力向上のための技術トレーニングを行った。その一環として、地球シミュレーターを活用し、各国の気温・降水量予測を全球モデルとしては最も解像度が高い20キロメートル・メッシュで行った。シミュレーションで再現した過去のデータを、各研修生が持参した実際の観測データと比較すると、バングラデシュのような平坦な地形の国ではおおむね良い一致が見られたが、インドネシアやフィリピンのように地形が複雑な国では、再現性に改善の余地があることが分かった。

研究プロジェクトの概要

気候変動問題に対する「適応策」と「緩和策」

2007年に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)から出された第4次評価報告書では、「20世紀半ば以降に観測された世界平均気温の上昇のほとんどは、人為起源の温室効果ガス濃度の増加によってもたらされた可能性が非常に高い」ということが示されています。地球温暖化をもたらす二酸化炭素をはじめとした温室効果ガスの排出量を削減していこうというのが「緩和策」であり、これまで国際社会は、低炭素社会の実現に向けた技術革新、吸収源となる森林の保全や植林、そしてクリーン開発メカニズム(CDM)や排出量取引の導入などに取り組んできました。しかしながら、こうした緩和策の効果が得られるまでには長い年月を要することから、近年ではすでに顕在化している温暖化の影響を予防・軽減する「適応策」の重要性が、広く国際社会の中で認識されるようになっています。

他方、09年10月に国際エネルギー機関(IEA)から発表された「温室効果ガス排出統計」によれば、07年に中国がアメリカを抜いて世界最大の二酸化炭素排出国となるなど、現在、開発途上国全体の排出量は世界全体の50%以上を占めています。しかし多くの途上国は、気候変動による干ばつや台風などの異常気象に対し脆弱であり、その対策に必要な開発資金も不足しているのが現状です。こうした背景から、先進国は自国での取り組み加え、気候変動への「適応策」と「緩和策」の両面から途上国を支援していくことが求められています。

このような国際社会を取り巻く潮流の中で、09年9月に開催された国連気候変動首脳会合で鳩山由紀夫総理大臣(当時)は、これまで以上に途上国に対して資金的、技術的な支援を行う用意があることを「鳩山イニシアティブ」として表明。同年12月にデンマークのコペンハーゲンで開催された気候変動枠組条約第15回締約国会議(COP15)では、これを具体化するため気候変動対策に意欲的に取り組む途上国や気候変動の悪影響に脆弱な途上国を対象に、2012年末までの約3年間で、官民合わせおおむね150億ドル規模の支援を発表しています。

研究の目的・内容・期待される成果

こうした地球規模の課題となっている気候変動問題に対しJICA研究所では、藤倉良客員研究員を代表者とする研究チームが、国内外の第一線で活躍する研究者とともに「開発途上国における気候変動適応策と緩和策の研究」プロジェクトに取り組んでいます。このうち「適応策」については、アジアやアフリカ諸国が気候変動によって受ける諸影響を予測するとともに、その適応のための方策を検討し、先進国や国際機関が支援するための方向性を提示。また「緩和策」では、アジア各国で低炭素化に向け必要な具体策を検討し、これに必要な国際社会の支援のあり方について提言することを目的としています。

具体的にこうした目的を達成し広く国際社会で研究成果が共有されるよう、適応策については、JICA研究所をはじめ気象研究所やスウェーデンのストックホルム環境研究所(SEI)、米国の環境法研究所(ELI)のほか、国内外の大学の研究者・実務者がアジアやアフリカで実施されてきた取り組みをレビューすることで、その政策的課題を抽出しました。また緩和策では、JICA研究所のほか国立環境研究所(NIES)や地球環境戦略研究機関(IGES)などが、低炭素化や省エネルギー、クリーン開発メカニズム(CDM)に関するこれまでの研究成果を取りまとめ、それぞれ書籍として刊行していくことになっています。

本研究プロジェクトについて藤倉客員研究員は、「日本は国際社会に対し、緩和策・適応策の両面から支援を表明している。そうした中でこの研究プロジェクトは、より有効な支援策を検討する材料を提供するもの」と、その意義について説明。「この研究の成果は、国際社会が模索するポスト京都議定書の議論に対する重要なインプットになる」と期待しています。  

これまでの研究成果と今後の展望

適応策に関する書籍とポリシーブリーフが完成

「開発途上国における気候変動適応策と緩和策の研究」プロジェクトのうち、09年度から先行して開始された「適応策」に関する研究については、その成果として2010年12月に英文書籍『Climate Change Adaptation and International Development』(藤倉・川西編著・英国Earthscan社発行)が完成。同月にメキシコのカンクンで開催されたCOP16のサイドイベント「Development and Climate Days at COP16」で、執筆者の一人であるJICAの川西正人国際協力専門員が、世界中から集まった専門家らを前に同書籍の概要を発表しています。

川西専門員は「IPCCの評価報告書で、アジアやアフリカでの適応策に関する研究の必要性が指摘されている中で、そうした事例を盛り込んだ本書に対する関心は高く、多くの関係者から問い合わせがあった」と話しています。

また、本研究から得られた教訓を基に、JICA研究所はポリシーブリーフ「開発途上国における気候変動適応策の効果的推進に向けて」(藤倉客員研究員・川西専門員)を発表。この中では、気候変動対策では緩和策のみならず適応策を講じていくことの重要性および途上国の気候変動に対する脆弱性をあらためて指摘し、次の3点について提言しています。

1.政策決定者や農民など利害関係者が必要とする気候予測をおこなうために、予測の基礎となる過去の気象データの収集とデジタル化、気候モデルの解析等に関わる技術者の養成、予測結果を利害関係者に理解できる言葉で説明する政策専門家の養成を早急に進めるべきである。

2.気候変動適応策を優先的に実施すべき地域や社会集団を特定する「脆弱性評価」を、早急かつ広範に進めるべきである。その際、脆弱性を高める原因の一つとなっている政策制度上の課題も明らかにすべきである。

3.過去の開発プロジェクトを「適応」の観点から再評価し、その経験と教訓を蓄積すると同時に、適応策の主流化を進めるべく、既存及び新規の開発政策・計画・プロジェクトに「適応」の観点を組み込む体制と能力を構築すべきである。

 

緩和策に関する研究が始動

他方、緩和策に関する研究については、09年9月下旬にプロジェクトに参加する研究者らがJICA研究所に一堂に会し、各研究パートの詳細や全体の構成について意見を交換するなど、本格的に研究プロジェクトが始動。研究成果として発刊される書籍には、緩和策に関する国際的枠組みのレビューに加え、途上国における低炭素化に向けた政策や「測定・報告・検証(MRV)」可能な「国ごとの適切な緩和行動(NAMA)」、都市間協力やアジアでのGHG削減事例などが盛り込まれることになりました。

この緩和策に関する書籍は、今年11月下旬から12月にかけ南アフリカで開催されるCOP17に合わせ出版される計画になっており、適応策と同様、COPの場を活用し、広く国際社会に向け発信していく予定です。

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