JICA緒方研究所

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気候変動とどう向き合うか JICA研究所がシンポジウム、「適応策をもっと推進すべき」

2011年2月8日

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JICA研究所は2011年2月1日、「Climate Change Adaptation and International Development(気候変動への適応と国際開発):気候変動に対する国際協力の展望」と題するシンポジウム(主催:JICA研究所、後援:環境省)を東京・市ヶ谷の研究所で開催しました。当研究所が先に出版した英文書籍「Climate Change Adaptation and International Development」(編者:藤倉良JICA研究所客員研究員、川西正人JICA国際協力専門員)の出版発表と併せて、JICA研究所をはじめ国内外の研究機関がこれまで取り組んできた気候変動適応策研究の成果を報告しました。シンポジウムには開発コンサルタント会社や大学、NGO、政府の関係者など約80人が来場しました。

Tsunekawa _D.jpgシンポジウムの開会にあたってJICA研究所の恒川惠市所長は「気候変動は地球上のすべての生物にとって脅威だ。とりわけ脆弱な途上国では影響が大きい。気候変動による被害を途上国がどう乗り越えていくかは、JICAにとって重要な課題」とあいさつし、研究所が気候変動対策、とりわけ適応策を国際協力と絡めて研究する意義を強調しました。 

あいさつに続いて、この書籍の編集・執筆に携わった藤倉客員研究員、気象研究所気候研究部第一研究室(気象モデリング)の楠昌司室長、高間剛JICA専門家、さらにJICA地球環境部気候変動対策室の升本潔参事役と国立環境研究所(NIES)の久保田泉主任研究員がプレゼンテーションを行いました。 

気候変動の脆弱性は経済力でも変わる

Fujikura.jpg最初に登壇した藤倉客員研究員は書籍の全体概要に触れながら、「日本では地球温暖化の議論は、95%が温室効果ガスをどうやって減らすかという『緩和策』に偏っている。気候変動の影響に備える『適応策』に対する理解は十分でなく、援助プログラムの中に適応策の要素をもっと組み込んでいく必要がある」と力説しました。

適応策の要素とは「脆弱性の低減」と「回復力の構築」の2点です。ここでいう脆弱性とは「気候変動の悪影響の受けやすさ」のことを指しますが、これは、気象や地理などの自然要因だけでなく、経済や社会、政治など多くの要因にも左右されます。つまり、同じ地域の中であっても、経済力のある人とそうでない人では脆弱度が変わります。より貧しい人がより厳しい環境に直面するという現実があるからこそ、適応策の強化は緊要なのです。また、回復力とは文字通り、危機的状態からよみがえる力のことです。 

JICA研究所が手掛けた適応策への取り組みのひとつに、マニラ首都圏で拡大することが将来予測される水害被害を、現在実施中の円借款による防災プロジェクトが完成した場合と、そうでない場合に分けてシミュレーションした事例があります。これにより、気候変動後の防災プロジェクトの効果を定量的に評価することができました。

Kusunoki.jpg次に、将来の気候予測の章を担当した楠・気象研室長が発表しました。気象研は、20キロメートル格子間隔の全球モデルとスーパーコンピューターを駆使して、将来の気候の変化を予測(森林伐採など、将来の土地利用の変化は考慮されていない)していますが、この発表の中で楠室長は「インドネシアやフィリピンでは雨期の降水量が増え、乾期の降水量は減る」「タイやベトナムも雨期の降水量は増えるが、乾燥地の乾燥化は進む」などといった見通しを明らかにしながら、「雨が短期間に集中して降るようになるとともに、干ばつが現れるようになる。水資源管理の適応策は欠かせない」と注意を喚起しました。

雨量の減少を「水不足」と認識してはいけない

高間専門家は、南アフリカの北部にあるハセララ村の住民の暮らしぶりを例に、適応策のあるべき姿について、現時点ではまだあまり意識されていない問題点を提示しました。 

Takama.jpg気候変動を受けてハセララ村でも降雨量が減ったり、雨期がずれるといった問題が生じています。ところが村民は「水不足だ」と感じるだけで、「気候変動の悪影響」とは認識していません。この認識の違いは一見すると大した話ではないように映りますが、実はとても深い問題をはらんでいます。

高間専門家は「いま村で起きている現象を『水不足』という一過性の問題ととらえた場合、村民は、例えば食料の摂取を減らすといった短期的な手段をとる。そうすると住民の健康状況が悪化するため脆弱性はますます高まってしまい、悪循環となる。しかし仮に、『気候変動』という長期にわたる問題と認識すれば、そのようなその場しのぎの対策はとらなくなる」と指摘します。 

政策決定者のあり方も同様です。水不足だからそれに備えようと灌漑設備を作っても、それは本質的な適応策にはなりません。高間専門家は「気候変動を認識することが重要。食事を減らすような短期的な手段ではなく、長期的に適応できる共同農園の開発など、複合的な対策を絡ませ、潜在的な能力向上を図る必要がある。そうすることで『後悔のない適応』が達成できる」とまとめました。

バングラに建設したシェルターは「2階建て」

Masumoto2.jpgこのほか、JICAの升本参事役は「気候変動に対する国際的な取り組みとJICAの役割:COP(気候変動枠組条約締約国会議)16をふまえて」のテーマで発表しました。具体的な適応策の事例として、節水や衛生、防災、海岸保全、感染症などへの対策、さらには給水システムや灌漑設備の整備、節水農業の推進、植林などを挙げました。

JICAのプロジェクト(無償)では、バングラデシュに91棟建設した「2階建てシェルター」が有名です。国土の8割が海抜9メートル以下のこの国は、雨期の洪水やサイクロンによる被害が甚大ですが、シェルターを2階建てにすることで、1階は浸水しても、2階に避難できるという狙いがあります。升本参事役は「開発と気候変動対策をどう統合していくかが課題」と述べました。 

Kubota.jpg最後にNIESの久保田主任研究員は「国際社会における適応策と緩和策に関する議論:COP17に向けて」のテーマで発表。「COP16のカンクン合意で、適応策について大枠では合意できたが、詳細は今後の交渉次第。緩和策と違って、適応策を進めていくということでは先進国と途上国は認識を一致させている。ただ資金の配分をめぐっては、最後発発展途上国、島しょ国、アフリカが優先とされている中で、優先対象となっている国と他の途上国といった構図の対立が出てくるだろう。将来枠組みの議論とともにCOP17までの1年間は非常に困難な交渉になる」との見方を示しました。

 

関連研究領域:環境と開発/気候変動

関連研究プロジェクト:開発途上国における気候変動適応策と緩和策の研究

 

日時2011年2月 1日(火)
場所JICA研究所
主催者JICA研究所
関連ファイル

プログラム

研究プロジェクトの概要(藤倉)

気候モデルを用いた気候変動予測への取り組み: アジア諸国の事例(楠)

気候変動への脆弱性と適応策を多重ストレスの観点から考える— 南アフリカ(高間)

気候変動に対する国際的な取り組みとJICAの役割— COP16を踏まえて(升本)

国際社会における適応策と緩和策に関する議論—COP17に向けて(久保田)




開催情報

開催日時2011年2月 1日(火)
開催場所JICA研究所

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