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日本は成長を続けるアジアとどう向き合うべきか

2010.10.22

中国の台頭などにより経済的にも軍事的にもアジア地域のパワーバランスが大きく変化し、その他多くのアジア諸国も経済的発展を遂げゆく中で、アジアの成長のけん引役だった日本は今後そうした国々とどう向き合い、どんな政策をとるべきなのか-。こうしたテーマを議論するシンポジウムが、10月14日、慶応義塾大学三田キャンパスで開催されました。

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恒川JICA研究所所長

「躍進するアジアと日本の挑戦」(主催=慶応義塾大学東アジア研究所、後援=JICA研究所)と題された同シンポジウムでは、緒方貞子JICA理事長による基調講演に続き、司会を務める国分良成 慶応義塾大学教授ほか4人のパネリストがそれぞれの専門分野の見地から発表を行い、討論者として参加した恒川惠市JICA研究所所長、田所昌幸 慶応義塾大学教授らと議論を交わしました。

緒方JICA理事長はその基調講演の中で、日本がアジアに対する援助を行っていく上で、国家間、また国民間における「格差のないダイナミックな開発」を目指すことが大切であり、中国国内の地域格差を例に挙げながら、成長を続けるアジアが一方で脆弱性を内包していることにも留意すべきだと語りました。また、自身も親交の深いロバート・スカラピーノ氏(米カリフォルニア大学バークレー校名誉教授;アジア諸国の政治・国際関係が専門)が「人間の安全保障」の概念に注目していることに触れながら、これから日本はアジア諸国と協力しながら、国家を超えた人々の安全の確保に尽力していくことが重要だと強調しました。

これに続き、中国政治の専門家である国分慶応義塾大学教授は、経済面でグローバル化が進む一方、政治・安全保障の面ではある種の多極化が強まるアジアの現状を分析。五百旗頭真 防衛大学校校長は、軍事的に力をつけた中国の国際社会での振る舞いへの日本の対応策について見解を述べました。また、アメリカ政治を専門とする久保文明 東京大学教授は、最近の普天間問題も含めて戦後の日米関係を振り返りながら、アジアの安定の観点から日米同盟の重要性を語り、朝鮮半島の安全保障問題に詳しい道下徳成 政策研究大学院大学准教授は、韓国の取り組みの事例を紹介し、日本も北朝鮮の変化へのさまざまな具体的対応策を準備しておくことが大切と強調。さらに、山影進 東京大学大学院教授は、東南アジア研究者の立場から、地域統合におけるアジアとヨーロッパの違いについて説明しました。

これを受け、討論者の恒川JICA研究所所長は、パネリストに対し、日米中3国間関係の課題を指摘した1959年のコンロン報告書に触れながら、50年前と現在の課題の共通性と違いは何か、各国間の経済的相互依存関係の進展は両国関係の安定につながるのかどうか、環境問題や感染症など一国だけでは解決できない「人間の安全保障」のための多国間協力がなかなか進まないのはなぜかといった問題を提起しました。また、田所 慶応義塾大学教授は、今後アメリカがアジアに対して高い関心を持ち関与し続けるのかどうかを問いました。これに対してパネリストからは、50年前に比べて中国が孤立の度合いを弱め、経済的に安定し発展したことは評価できる一方、大きくなった国力を地域内でどう位置づけるかは引き続き課題であること、相互依存の高まりが相互理解を深める一方、摩擦も生むことに注意が必要であること、多様性や現場の情報を重視するアメリカの国力はこれからもアジアにとって重要であることなどが指摘されました。

そして座席を埋めた学生からの質問に応え、最後に緒方JICA理事長は、「ITなどの影響で国家が管理できる領域が減少し市民の自治の範囲が広がっているからこそ、自分のことだけでなく、周りの人や周りの国など公共のこと、全体のことを考えられる『Wiseな国民』が日本にとって必要である」とのメッセージを送りました。

JICA研究所は、この日の議論でも取り上げられた「人間の安全保障」をASEAN統合の中心的課題に据えた研究プロジェックトを進めているほか、アジア域内における高等教育交流の現状を分析するなど、多種多様なアジア諸国のつながりをテーマとする研究を積極的に行っています。

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開催情報

開催日時:2010年10月14日(木)
開催場所:慶応義塾大学 三田キャンパス

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