JICA緒方研究所

ニュース&コラム

ジェンダーと国際教育開発に関する公開セミナー開催

2012年6月22日

JICA研究所は 5月28日、公開セミナー「ジェンダーと国際教育開発:課題と挑戦」をJICA研究所にて主催しました。

 

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本セミナーは、同タイトルの書籍が4月に刊行されたことを記念して、3名の編集者兼執筆者からの発表と、JICA研究所の結城貴子研究員、黒田一雄客員研究員、本部の水野敬子JICA国際協力専門員からも、事例を踏まえたジェンダーと教育についての発表が行われました。

 

JICA研究所細野昭雄所長による開会の挨拶後、「ジェンダーと国際教育開発の潮流と新たな課題」というテーマで、編集者3名による今までの背景と現状および今後の課題についての発表がありました。

 

まず、法政大学の長岡智寿子氏は本書の背景と目的に触れ、1990年に採択された「万人のための教育(EFA)」と、2000年のセネガル、ダカールでのEFA行動枠組みと国連ミレニアム開発目標(MDGs)における2005年までの初等教育の男女間格差解消は、一定の成果を上げている一方で、達成できなかった86ヵ国のうち58ヵ国は2015年でも達成は不可能ではないかとの予測を提示しました。これには、不就学の子どもが特定の国や地域に集中しており、顕著な国内格差の存在が背景にあります。
これらを踏まえて 長岡氏は「教育へのアクセスだけでなく、教育におけるジェンダーの主流化を通し、MDGs目標3とEFA第5目標におけるジェンダー平等の達成に貢献することが大切だ」と述べました。

 

次に、目白大学の菅野琴氏は自身のフィールド経験を踏まえ、「調査研究の成果やデータがあり、政府やNGOなどの組織の活動や成功例もあり、また地域や国際的なネットワークもありながら、なぜ女子/女性教育の普及が遅いのだろうか」を提議しました。これに対して、「近年、女子教育のスケールアップと呼ばれるアプローチが効果的な戦略として注目されている」と述べました。このスケールアップとは、ジェンダー平等の視点を持って教育システムのすべての側面を見直す必要性を説いています。その鍵として、菅野氏は「現場と政策決定の間に位置する政府や自治体の担当官の意識および能力を高めることであり、教育界におけるジェンダー主流化が必須である」ことを強調しました。

  

国際基督教大学の西村幹子氏は、本書からの知見として次の5点を挙げています。 

 

  1. 1.社会全体の仕組みや価値規範との関連なしで教育におけるジェンダー平等の確立は困難である。学校のカリキュラムや教師の態度、学校施設の作り方などにジェンダー不平等や差別が反映されていれば、学校自体が不平等を再生産することにもなりかねないため、批判的視点から学校教育を見直すべきである。
  2. 2.教育におけるジェンダー平等は、貧困、人種/民族、カーストなど他の要因と密接に関連している。ジェンダーとは、単に男女の比較だけでなく、複雑で多層化したアイデンティティの一部として捉える視点が必要である。
  3. 3.近年、教育達成度が就学率や識字率などの量的尺度で測られることで、却ってジェンダー差異を複雑で分かりにくいものにしている。
  4. 4.ジェンダーと国際教育開発に関連する、国境を越えたネットワークや試みの可能性についての検証が必要である。たとえば、バングラデシュで設立された「アジア女子大学」などグローバルな女性リーダー育成への取り組みは、国家の既存の教育システムや労働市場におけるジェンダー平等にどのようなインパクトがあるかなど、これまでにない視点で注目するべきである。
  5. 5.教育の社会的機能をもう一度批判的に捉える必要がある。具体的には、「学校で教えられる知識などにバイアスはないか」、「教育の恩恵は特定の集団に偏っていないか」、「すべての人が学校へ行く意味は何か」、などを問い直してみる必要がある。
  6.  

 最後に、ポストMDGsに向けた本書のメッセージとして、「既存の(学校)教育制度を前提とした就学率や識字率の向上と、数値における男女間格差を目指す「アクセスに焦点を置いたジェンダー格差是正アプローチ」から、ジェンダー不平等あるいは差別の構造的かつ根本的な原因の除去と、伝統的なジェンダー役割や男女のステレオタイプの転換への関心を持ちつつ、教育の量と質双方におけるジェンダー平等を最終目標とする「ジェンダー平等」へのパラダイムシフトの必要性を挙げました。

 

JICA国際協力専門員の水野敬子氏からは、「日本の教育協力におけるジェンダー格差解消への取り組みと新たな可能性」のテーマで発表があり、その中で日本は、以前より国内外に向けてジェンダー格差の是正の重要性を発信していたことを挙げました。また、援助政策全般においては、2000年以降の基礎教育分野での技術協力プロジェクトが、現場でのボトムアップ・アプローチによって飛躍的拡大を遂げたことを指摘しました。

 

水野氏はグアテマラでの女子教育の事例を紹介し、1993年の日米コモンアジェンダとしての課題にWID(Women in Development)の概念を加え、日本による初めての女子教育協力を立ち上げた経験を述べました。このプロジェクトでは、グアテマラの特徴である多民族、多言語、伝統的ジェンダーを配慮した初等教育の普及を目指すことで、学校要因、家庭要因、教育行政要因を網羅した男女格差の是正に取り組んできました。また、イエメンにおいても2008年まで女子の就学促進を目指した3年のプロジェクトの事例に触れ、宗教指導者の巻き込みや保護者や学校長などの関係者の意識変化の成果にも言及しました。

 

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結城貴子研究員
イエメンの事例について、JICA研究所の研究プロジェクトで代表を務める結城貴子研究員がその中間発表を行いました。イエメンなどアラビア語圏を対象とした研究は、言語の問題や、不安定な社会情勢によって研究者が現地に入りにくいという状況が多々あって、これまで十分に現地調査がされてこなかったという経緯があることから、本研究は日本だけでなく国際社会においても有意義な研究と言えます。また、教育の量と質の関連性や、社会や経済活動における男女平等において、教育機会の男女格差是正の達成度が高い地域や学校間の比較などを中心に研究を進めています。結城研究員チームは、最終的な分析結果を今年中にまとめ、来年度にはその最終成果を発表予定です。(調査の詳細は、ニュースレターNo.36をご覧ください)

 

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     黒田一雄客員研究員

 最後の発表者として、JICA研究所客員研究員で早稲田大学の黒田一雄氏は、「教育におけるジェンダー公正の対象となる女児、女性だけでなく、エスニック(言語)マイノリティ、障害者などの多岐にわたる教育弱者の現状を見なければ、初等教育の普遍化・アクセスの格差是正の達成は難しい」と指摘しました。同時に、ポストEFA における議論として、教育の量から質だけでなく、教育のアウトプットからアウトカムへのパラダイムシフトの重要性を訴えました。

 

本セミナーでは男性の参加者も多くみられ、この分野の実務者、研究者、学生など幅広い層の参加者の間で、熱心な質疑応答が展開されました。

日時2012年5月28日(月)
場所JICA研究所



開催情報

開催日時2012年5月28日(月)
開催場所JICA研究所

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