JICA緒方研究所

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フランス第三世界学会でJICA技術協力プロジェクトをベースにした論文を発表

2011年6月23日

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フランス第三世界学会で発表をする片柳真理研究員
JICA研究所の片柳真理研究員は、6月8日から10日にわたりスイス、フリブールで開かれたフランスの第三世界学会Association Tires-Monde(フランス国際開発学会)の大会に参加しました。「市民社会の形成と開発:発展する革新・支援・政治アクション」を主なテーマに掲げたこの会合で、ボスニア・ヘルツェゴビナにおけるJICA技術協力プロジェクトの成功事例に関する論文を発表しました。

ボスニア・ヘルツェゴビナ東部の谷あいにある小さな町、スレブレニツァ市郊外で、JICAは2006年より多民族コミュニティを対象とした二つの信頼醸成プロジェクトを実施してきました。スレブレニツァでは、1995年に7000人以上のボシュニアック(ムスリム)男性が虐殺されました。戦後15年以上が経過した今もその傷跡は深く、同地域はくすぶり続けるボシュニアックとセルビア系住民間の相互不信を拭い去ることができずにいます。

JICAはボスニア・ヘルツェゴビナ政府の要請を受け、果樹栽培やハーブ・野菜の生産、養蜂などの活動を通して民族間の和解や地域の再建を支援するため、農業の専門家を現地へ派遣しました。現在、両民族の住民は協力して事業に取り組んでおり、また農作物の生産や販売を連携して管理する団体や組合の動きも地域で広がりを見せています。結果、住民の収入は増加し、両グループ間で日常的なコミュニケーションや情報交換が確認されるなど、民族間の交流においても目に見える変化が現れました。自治体もプロジェクト推進に積極性を強めています。

スレブレニツァでのJICAプロジェクトの成果は、2001年から8年以上にわたり同国の平和構築に携わった経験を持つ片柳研究員の耳にも届いていました。しかし同研究員は今回改めて、人権に基づく開発のアプローチを用いてこのJICAプロジェクトを詳細に分析し、その成果を考察しました。人権に基づくアプローチとは、援助対象を権利保持者(市民)と責任の担い手(自治体・政府)という観点で捉えた上で、どのような援助が必要かを探る開発戦略です。片柳研究員は「ボスニア・ヘルツェゴビナのように、家族や仲間内の結びつきは大事にするものの外部とのかかわりにあまり積極的ではない社会では、民族の枠を超えるプロジェクトへの住民参加を促すのは困難なため、プロジェクトの効果に感心した。」と語り、受益者が援助に過度に依存してしまうといった援助プログラムの弊害がしばしば指摘される中、住民参加を訴えることでプロジェクトを成功へ導いた貴重な例だと指摘しました。

成功の要因は、過去に他のドナーが虐殺で被害を受けたボスニアックのみを支援してセルビア系住民の不満を買ったのに対し、JICAはプロジェクト開始当初より、民族にかかわらず帰還民、母子家庭、戦争傷病者のいる家庭を優先するという明確な基準で受益者を選定したことだと片柳研究員は指摘します。同研究員は、「JICAは両民族が互いの信頼を取り戻し、共に活動に取り組めるプロジェクトを実施してきた。JICAの個人を平等に見る姿勢は、人権に基づくアプローチの原則と共通しており、それは結果として、民族の如何に関わらず人々の権利を守ることにつながっている。」と説明します。さらに、「ボスニア・ヘルツェゴビナの政治は依然として民族主義に根ざしているが、この地域のコミュニティは農業活動を通じて、その呪縛から抜け出しつつある。(武力紛争によって一度破壊された)市民社会がスレブレニツァのような場所で再建されていることは象徴的だ。」と述べ、一方で、社会の変化を根付かせるにはさらなる時間と努力が必要だと結論づけました。

JICA研究所は、海外で開催される会議への参加など、多様な活動を通じて、ネットワーク拡充と研究成果発信に精力的に取り組んでいます。今回フランス語圏の学会へ参加したのは、片柳研究員にとっても初めての経験でした。アジアからの唯一の発表者としてこの学会に参加し、フランス語圏の開発に関する学術研究の最新動向を知ることができたことは意義深かったと片柳研究員は振り返ります。フランス第三世界学会は同研究員の出席を歓迎し、今後もJICAからの参加を期待する声が聞かれたということです。


関連研究領域:平和と開発 

ムービー・コメンタリー

片柳真理
JICA研究所研究員

日時2011年6月 8日(水) ~ 2011年6月10日(金)
場所スイス、フリブール
主催者フランス第三世界学会
言語フランス語

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