JICA緒方研究所

ニュース&コラム

開発効果向上のための提言:共同研究で英文書籍を出版

2011年6月15日

Book cover photo変容する開発援助の環境

2005年、援助効果向上とミレニアム開発目標の達成促進を目標とした「パリ宣言」が採択されました。それから6年、開発援助を取り巻く環境は大きく変容しました。パリ宣言の目標年であった2010年の翌年にあたる今年の11月、開発関係者および政策立案者は韓国釜山でのハイレベル会合において、再度援助効果における課題を検討する予定です。国際社会の変化は、近年ますます加速しており、様々なテーマが議論されるハイレベル会合の中でも、新しい環境への対応は特に注目すべき点と言えます。今月、こうした問題を含んだ研究が書籍「Catalyzing Development: A New Vision for Aid」(『開発の触媒として:援助の新たなビジョン』(仮))として出版されました。この本は、JICA、韓国国際協力団(KOICA)、そして米国ブルッキングス研究所開発センター(Brookings Institution, Wolfensohn Center for Development)の3者による共同研究の成果であり、政策提言を援助関係者へ広く提唱することを目指しています。

 

著者の一人であるJICA研究所の室谷龍太郎リサーチ・アソシエイト(RA)は、パリ宣言は従来の援助協調の枠組みと発想のもと取りまとめられたもので、変化しつつある現況には対応しきれていないと指摘しています。経済危機、気候変動、国内外の紛争や暴力などの課題に世界が立ち向かう中、中所得国(インドや中国など)、NGO(ビル&メリンダ・ゲイツ財団など)、民間セクター(国内外の民間企業や金融機関、社会的企業など)のような新しいアクターの存在はますます大きくなってきています。室谷RAは「伝統的な援助国や機関からの援助が途上国への資金に占める割合が相対的に減少傾向にある一方で、新しいアクターによる資金の割合が増加している」と言います。本書データがこの点を証明しています。OECD(経済協力開発機構)開発援助委員会(DAC)の支援は1995年から1998年の間、援助総額の80%を占めていましたが、2005年から2008年にかけ56%へと縮小しました。その間、非メンバー国政府や民間慈善団体からの援助は全体の37%へと倍増したのです。「新たなアクター、新たな動きを重要な要素と捉え、既存の援助効果という議論ではなく、“開発効果”という枠組みで考えていくことが大切だ。」と室谷RAは説明します。 

 

援助の重要課題を考察

JICAの牧野耕司企画部参事役(当時)、KOICAのWoojin Jung政策研究局政策アナリスト、そしてブルッキングス研究所のHomi Kharas上級フェローが編集を手がけたこの本は、「新たなアクター」、「新たな課題」、そして「新たな手法」の三部に分かれています。「新たなアクター」では、民間セクターや中所得国などの従来とは異なるアクターについて紹介。その役割と方針、そして今後の協調関係の構築方法などを議論しています。また「新たな課題」と題する第二部では、脆弱性、キャパシティ・ディベロップメント(CD)、気候変動など、今日の緊急的な課題をそれぞれ考察しています。さらに第三部の「新たな手法」では、支援内容の透明性向上や南南協力、そして援助事業のスケールアップなどの事項が詳細に分析されています。

 

この本の制作には、世界中から20人近くの研究員や専門家が協力しました。JICA研究所からは、恒川惠市シニア・リサーチ・アドバイザー、武内進一上席研究員、室谷RAを含む研究チームが脆弱性に関する一章を担当し、アフガニスタン、カンボジア、ルワンダ、コンゴ民主共和国の4ヶ国を例に比較分析を行いました。研究チームは、能力があり、かつ正当な国家の形成を支援するためには、国民の意識や国民と国家の関係の変化、治安・生活状態の実際の改善状況を詳細に観察することが不可欠である、と強調しています。また章の最後では、脆弱国のそれぞれの状況検証に基づいた政策の選択肢が提示されています。

 

一方、細野昭雄JICA研究所所長が率いる研究チームは、更に高まるキャパシティ・ディベロップメント(CD)の重要性について、独立の章で論じています。その論文は、インドネシア、ニジェール、バングラデシュをCDの観点から再検証し、キャパシティ向上を促進させる五つの要素を紹介。被援助国の能力強化は開発実務と深く結びついており、現在も変わらず重要であると論じています。CD研究チームの一員である本田 俊一郎RAは、「この章で提示した論点や政策提言が、ハイレベル会合で協議されるCDアジェンダの深化に貢献できれば」と述べています。

 

※この本はブルッキングス研究所より英語版のみ出版されています。

 

関連領域:援助戦略

日時2011年6月30日(木)



ページの先頭へ