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「世界開発報告(WDR)2015:心・社会・行動」:世界銀行とJICAの共催セミナーを開催

2015.02.09

2015年2月4日、JICAと世界銀行の共催セミナー「世界開発報告(WDR)2015:心・社会・行動」が開催されました。

世界銀行は2014年12月、『世界開発報告(WDR)2015:心・社会・行動』を発表しました。本セミナーでは、報告書の執筆担当共同局長であるヴァルン・ガウリ氏が報告書の概要を紹介し、日本の研究者を交えたパネルディスカッションが行われました。JICA研究所からは、畝伊智朗所長がモデレーターとして登壇し、客員研究員の澤田康幸東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授がパネリストを務めました。

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ガウリ氏

セミナーの冒頭挨拶を行った小寺清JICA理事は、世界銀行のフラッグシップレポートであるWDRの意義や、これまでに開発潮流に与えた影響について概観しました。続いてガウリ氏が基調講演を行い、報告書の概要を説明しました。ガウリ氏は、人は自己利益を最大化するように合理的に判断を下すと考えられているが、実際には、置かれた環境がもたらす自動的な思考反応や、社会規範や固定観念の影響を受けて判断・行動を行っていることを指摘しました。また、貧困は人びとに生存をかけた多くの判断を迫るものであり、貧困削減を目的とした開発政策の策定や介入を行う上では、人の「心・社会・行動」への考慮が、その成果を大きく左右すると説明しました。例えば、ケニアにおいて、HIV/AIDS治療薬の服用を促す携帯電話メッセージは、毎日よりも1週間に一度の頻度の方が高い効果を示したケースや、安全な飲料水を確保するための塩素消毒は、各家庭にディスペンサーを提供する方が、他の手段に比べて格段に効果的であることなど、実証研究の結果から得られた具体的な例に触れました。

ガウリ氏の発表を踏まえて、澤田教授と川上憲人東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻長兼精神保健学分野教授がコメントをしました。澤田教授は、実験的な定量分析は過去には実験室のものであったが、近年開発経済学では現場における実験を含む実証研究が目覚ましい成果を上げており、今回のWDRにはその成果が存分に活用されていることを評価しました。JICAでも同様の実証研究を行っている例として、アフリカの教育プロジェクトによる社会資本強化に関する研究の成果を説明しました。その上で、実験を含む実証研究には、結論の汎用性などの観点で制約があることや、さらなる研究の必要性に触れました。次に川上教授は、メンタルヘルスが脳に影響を与え、ひいては意思決定にも影響を与えるという事実を踏まえた上で、メンタルヘルスが生産性向上のみならず、政策の効果的な実施という側面でも開発に影響があることを指摘しました。このため、心理的サポートの必要な人に教育プログラムやトレーニングを提供すること、また人々の間の信頼の向上といった「メンタル資本」を強化することが重要であると説明しました。

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(左から)ガウリ氏、澤田教授、川上教授、畝所長

最後に行われた質疑応答では、途上国の汚職問題解決への適応や、メンタルヘルスを人的資本と捉えることの重要性などについて活発な議論が交わされました。また、より効果的な開発政策を立案するためには、既存研究の知見を十分に活用するとともに、社会規範や様々なバイアスなどの詳細な分析が必要であることが指摘されました。

本セミナーで各登壇者が発表した資料は、世界銀行東京事務所のウェブサイトからダウンロードすることができます。

また、WDRの全文は、世界銀行のサイトからダウンロードすることができます。

【インタビュー動画】
ヴァルン・ガウリ氏(世界銀行グループ 世界開発報告執筆担当共同局長)/「WDR2015: 心理的・社会的要因を踏まえた新たな開発アプローチ」

開催情報

開催日時:2015年2月 4日(水)
開催場所:JICA市ヶ谷ビル

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