JICA緒方研究所

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「東アジアにおける人間の安全保障の実践」第2期研究が開始

2015年5月11日

JICA研究所では、人間の安全保障の実践について分析する研究プロジェクト「東アジアにおける人間の安全保障の実践」を進めています。プロジェクト第2期の開始に合わせ、各国の研究者らが2015年4月17日~18日、東京・市ヶ谷のJICA研究所で開かれたワークショップに参加し、今後の研究の進め方などについて議論しました。.

 

研究枠組みが議論
研究の枠組みについて議論

人間の安全保障は「一人ひとりの人間の基本的自由(恐怖からの自由、欠乏からの自由、尊厳をもって生きる自由)を、上からの『保護』と下からの『能力強化(エンパワメント)』によって守ること」と定義されます(*)。この考え方は1994年に国連開発計画の『人間開発報告書』で提起されて以降、徐々に、しかし着実に国際社会に広がり、浸透してきました。その半面、人間の安全保障の考え方を実際にどのように実現するのかについては、研究および現場の実践の両面において課題となっています。

 

人間の安全保障を実現している具体的取り組みを見いだし、人間の安全保障のさらなる実践の推進に貢献していくことを目的として、JICA研究所は2013年、東アジア地域(ASEAN+3の13ヶ国)を対象に、ASEAN戦略国際問題研究所連合(ASEAN-ISIS)のメンバーであるフィリピン戦略開発問題研究所(ISDS)や、中国、韓国、日本の研究者と共同で、「東アジアにおける人間の安全保障の実践」プロジェクトを開始しました。プロジェクトの第1期では、対象13ヶ国で人間の安全保障の概念が人々にどのように捉えられており、またどのような問題が人間の安全保障上の脅威と認識されているかについて、国ごとに調査・分析を行いました。このうち、ASEAN7ヵ国と中国、韓国に関する研究結果については、すでに研究所のワーキングペーパーとして刊行されています。残るASEAN3ヵ国と日本についての研究結果をまとめたワーキングペーパーも2015年度内に刊行予定です。

たんぼ所長
畝伊智朗JICA研究所所長(中央)

このほど開始された第2期は、人間の安全保障上の脅威となっている問題に対処している具体的事例を詳細に分析し、人間の安全保障を脅かす事態に適切に対応していくために必要な実践のあり方を探ることを目的としています。具体的には今後、自然災害、感染症、暴力的紛争、人身売買などから10の事例を取り上げて比較事例分析を行い、その成研究果を学術書として出版する予定です。

 

ワークショップの冒頭、JICA研究所の畝伊智朗所長があいさつし、「人間の安全保障を実現するためには国境を超えた取り組みが不可欠であり、ASEANプラス3の枠組みによる地域協力が重要」と述べました。

 

ワークショップの第1セッションでは、編者の1人、中国・復旦大学の任暁(Ren, Xiao)教授が議長を務め、他の3人の編者がプレゼンテーションを行いました。まず、JICA研究所の峯陽一客員研究員(同志社大学教授)が、プロジェクト全体の背景と概要について説明し、続いてカロリーナ・ヘルナンデスISDS所長(フィリピン大学ディリマン校名誉教授)が第1期の研究成果を報告した後、韓国・梨花女子大学の金恩美(Kim, Eun Mee)教授が第2期の研究枠組みについて説明しました。

 

峯陽一
峯陽一客員研究員

第2セッションでは、各事例を担当する各国の研究者によるプレゼンテーションをふまえ、事例研究の進め方ついて、議論が行われました。それぞれの事例研究は、「国境を越える脅威への対応をどのように行うべきか」「『開発援助』や『人道援助』など異なるアクター間の伝統的な役割を超えた包括的対応をどのように実現するか」「上からの『保護』だけでなく、脅威にさらされる人々自身の『能力強化』をどのように促進するのか」の3つの問いに応えていくことを、共通の枠組みとして進められます。

 

峯客員研究員はプロジェクトに関して、「さまざまな色の糸で織られたタペストリーのように、多様性にあふれたアジア版の人間の安全保障の実践をまとめるため、研究者間で一緒になって取り組んでいきたい」とし、「人は、同じものを違う視点で捉えるが、この事実は、混乱の種ではなく脅威に対処するための力の源にならなくてはいけない。人間の安全保障についての共通の理解が地域的枠組みのなかで芽生えてきていることを心強く感じる」とコメントしています。

 

第1期の研究結果をまとめたワーキングペーパーは、以下のページでご覧いただけます。

 

*Kamidohzono, Sachiko G., Oscar A. Gomez and Yoichi Mine. 2015. Embracing Human Security: New Directions of Japan's ODA for the 21st Century, JICA-RI Working Paper No. 94..




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