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日本の知見と世界的視点から防災の重要性を発信:「経済成長と人々の生活のための防災」を発刊

2015年6月24日

いかにして災害への備えを強固(レジリエント)なものとし、経済成長と持続的発展を続けるか。この課題に対し、日本をはじめとする世界の経験や研究をまとめた書籍「経済成長と人々の生活のための防災(Disaster Risk Reduction for Economic Growth and Livelihood)」が2015年5月、英国のRoutledge社から出版されました。

 

第3回国連防災世界会議
日本の知見も共有された
第3回国連防災世界会議
=2015年3月、仙台
(写真:久野真一/JICA)

本書は、JICAの柳沢香枝理事らが編者を務め、世界各地で災害復興や防災に関する実践と研究に取り組んできた多くの専門家、日本政府関係者、大学の研究者及びJICA職員らが、執筆者に名前を連ねています。柳沢理事は「日本は、地震をはじめとする災害の多発国であり、1200年以上前から防災に取り組んできたという特異な歴史を持つ国。世界にはそうではない国がたくさんある」と説明。本書の中でも「防災文化」ともいえるほど根づいている日本の防災意識の共有や、防災・復興の教訓に基づく様々な取り組みを紹介しています。

 

一方、柳沢理事は「この本は、日本やJICAの経験だけを発信するのではく、国際機関や他国の専門家と協力しながら、さまざまな事例と国際的な視野から防災を論じている」とその意義を解説します。具体的には、スマトラ沖大地震・インド洋大津波の後、インドネシア・アチェでの復興経験や、バングラデシュの地域コミュニティでの防災の取り組み、アフリカでの干ばつ対策に関する論考なども取り上げています。

 

アルジェリアの学校での避難訓練
アルジェリアの学校での避難訓練

執筆者も、日本の関係者以外に、世界銀行、国連開発計画(UNDP)、欧州委員会人道援助局(ECHO)、インドネシア、バングラデシュなどと幅広く、JICA地球環境部によれば、「世界で防災に取り組んでいる主要なアクターのほとんどすべてが関与し、一緒につくった本と言ってもよい」という布陣になりました。

 

最近の災害では、その被害の大きさが気候変動と結びつけて議論されることが多くなっていますが、柳沢理事は「たとえば50年に一度の洪水といっても、被害のすべてが気候要因によるものとは言えない。タイでは、1999年に災害対策マスタープランがJICAの協力により作成されたが、それが実施されなかったために、2011年の洪水で被害が拡大した面もある」と指摘。「多くの国では防災への投資の優先度が低い。このため、災害復興過程でのビルド・バック・ベターを含め、防災を意識した事前の投資が、経済成長にもつながることを伝えたいと考えた。また"防災のための防災"ではなく、インフラ整備や学校建設など、いろいろなものの中に防災の観点を取り入れていく"防災のメーンストリーム化(主流化)"が重要というメッセージを込めた」と話しています。

 

日本の砂防ダムを視察する海外からの研修員
日本の砂防ダムを視察する
海外からの研修員
(写真:今村健志朗/JICA)

本書は、防災に取り組む専門家や各国の政府、援助機関やドナーから、住民、企業まで、幅広い層に読まれ、活用されることが期待されています。柳沢理事は、「そのなかでも、途上国政府の関係者に読んでもらいたい」と話しています。

 

本書の序文は、田中明彦JICA理事長と、マルガレータ・ワルストロム国連事務総長特別代表(防災担当)が寄せています。

Routledge社の書籍紹介ページ




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