JICA緒方研究所

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科研費を活用した研究がスタート:途上国支援への新たな示唆を探る

2015年7月22日

JICA研究所研究員による2つの研究が2015年度の文部科学省の科学研究費助成事業(科研費)の助成研究に初めて採択され、研究活動がスタートすることになりました。亀山友理子研究員の「低学年児童における保護者による学習支援の実態把握と低学力の改善に関する研究」と、下田恭美(ゆきみ)研究員の「インクルーシブビジネスによる国際開発支援の社会・文化的影響と持続可能性に係る研究」です。また三村悟上席研究員も、福島大学に出向中だった2014年度に、科研費による研究を開始し、JICA復職後も継続して取り組んでいます。

 

カンボジアの子供たち
カンボジアの小学校で授業を受ける
子供たち(写真:久野真一/JICA)

科研費は、人文・社会科学から自然科学までの幅広い分野で、基礎から応用までのあらゆる独創的・先駆的な学術研究を対象とした日本最大規模の「競争的資金制度」(研究者や研究機関が応募して、専門家の審査を経て支給される研究費)です。研究者が、この科研費助成を受けるためには、指定「研究機関」に所属していることが必要です。JICA研究所は、2014年度に文部科学大臣の指定を受け、科研費を申請できる「研究機関」となりました。採択率が約29%(2014年度実績)の中、指定翌年度から申請した案件の約60%が採択され、順調な滑り出しとなりました。

 

亀山研究員の「低学年児童における保護者による学習支援の実態把握と低学力の改善に関する研究」は、途上国における保護者の学習支援活動、手法を体系化し、不利な立場の家庭においても効果的かつ可能な学習支援方法を示唆しようとするものです。国際規模の学習到達度調査では、途上国には初等教育低学年から基礎学力を習得していない児童が多数存在することが判っています。今までの研究は、学校や教員といった教育提供側の分析に集中していましたが、保護者の学習支援活動は、学習成果向上において大きな役割を果たす可能性があります。その有効活用を見据えた実証的な研究を目指しています。

 

下田研究員の「インクルーシブビジネスによる国際開発支援の社会・文化的影響と持続可能性に係る研究」は、低所得者層をビジネスサイクルに取り組むことを通じ、社会課題解決を目指すインクルーシブビジネスについて、低所得層の生産者とその社会、および国際企業社員とその組織が受ける非経済的影響(社会・文化)に光を当て、その可能性を包括的に検討しようというものです。新しい開発援助形態として注目されるインクルーシブビジネスですが、途上国への社会・文化的影響、国際企業組織内の変化に関する学術的研究はほとんどありません。ビジネスを通じた社会的課題の解決がどの程度可能か、不利益はないか、国際開発援助機関を含む各アクターの役割は何かを考察し、持続・発展可能性への示唆を得ることを目的としています。

 

三村上席研究員の研究は「太平洋島嶼国における災害対応力・復元力の日本への導入」と題したもので、中村洋介福島大学准教授が研究分担者となっています。太平洋の小さな島嶼(とうしょ)国は、津波や高潮など自然災害のリスクが高い一方、防潮堤のような構造物による災害対策や、予警報システムの整備などが進んでいません。しかし実際の災害による人的被害は津波などの規模に比べて小さく、その要因として島嶼コミュニティの持つ生活に根差した災害対応力があると推論しています。本研究は太平洋島嶼の持つコミュニティレベルの災害対応力、復元力を解明し、日本を含む各国の防災能力向上活動への適用を図ることを目的としています。

 

それぞれの研究者は、その成果を関係学会や会議で発表するとともに、実際の支援の場にも活かしていくことを目指しています。

 




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