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「プノンペンの奇跡」はどのように実現したのか:カンボジアの水道改革をまとめたプロジェクト・ヒストリー刊行セミナー開催

2015年8月4日

蛇口をひねるだけで安全な水を飲めるのは、アジアでは日本とシンガポール、そしてカンボジアの首都プノンペンだけです。プノンペンでは内戦の傷跡がまだ癒えない1993年から水道改革に取り組み、わずか15年で100万人を超えるほとんどの市民に、安全な水を安定的に安価で提供することに成功しました。この成功は世界から驚きと称賛をもって「プノンペンの奇跡」と呼ばれています。

 

久保田氏
現地での協力について話す北九州市
上下水道局の久保田氏

JICA研究所の「プロジェクト・ヒストリー」シリーズ第13弾として刊行された『プノンペンの奇跡 世界を驚かせたカンボジアの水道改革』は、この奇跡の背景を、幅広い資料と関係者への綿密なインタビューに基づいてまとめたものです。この発刊を記念し、JICA研究所とJICA地球ひろばは2015年7月23日、JICA市ヶ谷ビルの国際会議場で出版記念セミナーを開催しました。

 

開会のあいさつに立ったJICA研究所の畝伊智朗所長は、本書がキャパシティ・ディベロップメントの具体的事例について多面的な分析を行っていることに加え、リーダーシップとマネジメントのプロセスを描いていること、さらに普遍的なマネジメントのヒントを示唆していることを高く評価。「今日のセミナーは、現場を支えた専門家の体験を直接聞くとともに、プノンペンの奇跡の全体像を知る貴重な機会である」と述べました。

 

参加者からの質問に答える講師たち
参加者からの質問に答える講師たち

最初に著者の一人で、JICA産業開発・公共政策部の鈴木康次郎専任参事が、「プノンペンの奇跡」の全体像を語りました。15年間でプノンペン水道公社の業績がどのように向上していったかを、水供給能力や水質基準、給水の普及率などのデータを比較して説明。成功の要因として、プノンペン水道公社(PPWSA)のエク・ソンチャン総裁の強力なリーダーシップとそれを支えた政府の改革への関与、そしてJICAをはじめとする援助機関によるタイムリーな支援を挙げ「自助努力とそれを支える国際協力があってこそ、奇跡を達成することができた」と述べました。

 

同じく著者の一人、桑島京子JICA客員専門員は、エク・ソンチャン総裁のリーダーシップと初期段階の改革について語りました。改革前のプノンペンでは、1970年代から続く内戦で水道設備が劣化し、給水能力は約4割に低下していました。加えて、不正売水や不正接続など組織的な不正が常習化し、漏水・盗水も多かったため、ほとんどの住民は水道水を使うことができず、正規の6~20倍もの料金で水売り業者や近隣住民から水を購入していました。こうした状況の中、水道局長(当時)に任命されたエク・ソンチャン氏は、規律の回復、同じ志を持つ若手を集めたチームの構築、利用者との新たな関係づくり、そして国際機関からの援助により、改革を推進していったことを説明しました。

 

会場には、これまでに発刊されたプロジェクト・ヒストリーも展示された
会場には、これまでに発刊された
プロジェクト・ヒストリーも展示された

続いて、JICAの技術協力プロジェクトの専門家として、1999年から計4回にわたってPPWSAに派遣された北九州市上下水道局海外・広域事業部の久保田和也氏が、現地での協力について語りました。PPWSAで久保田氏が担当したのは、漏水・盗水対策。当時のプノンペンでは、違法分岐による盗水や素人工事による漏水が発生し、水道料金として回収できない無収水量率は72パーセント(1993年時点)にも上っていました。

 

そこで、どこで漏水・盗水が起きているかがわかる配水ブロック化と配水監視システムを導入するとともに、エク・ソンチャン総裁のリーダーシップのもと盗水を摘発し不正行為を廃絶。現在、プノンペンの無収水量率は、北九州市の8パーセントを上回る6パーセントを達成しています。久保田氏は「プノンペンの奇跡」について「エク・ソンチャン総裁の強いリーダーシップの下、公社職員一人ひとりの努力によって積み重ねてきた成果である」と振り返りました。

 

最後に行われた会場との質疑応答では、「リーダーのパーソナリティによってプロジェクトは左右されるのか」「農村部に上下水道設備を導入した場合、伝統的な生活は変わるのか」「1990年代に水道改革が可能となった背景には何があるのか」といった質問が寄せられました。

 

日時2015年7月23日(木) ~ 2015年7月23日(木)
場所JICA市ヶ谷ビル



開催情報

開催日時2015年7月23日(木)~2015年7月23日(木)
開催場所JICA市ヶ谷ビル

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