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今なぜ「質の高い成長」か? 畝所長がJIRCAS国際シンポジウムで基調講演

2015年11月10日

国立研究開発法人国際農林水産業研究センター(JIRCAS)が主催する国際シンポジウム「国際農林水産業研究における質の高い解決策の提案」が2015年10月28日、東京都渋谷区の国連大学ウ・タント国際会議場で開かれ、JICA研究所の畝伊智朗所長が「今なぜ『質の高い成長』か?-JICAの経験から」をテーマに基調講演を行いました。

 

講演する畝所長(左)
講演する畝所長(左)

JIRCASは毎年、開発途上地域の公的機関、大学、国際研究機関の研究者が集う国際シンポジウムを開催。今年のシンポジウムは、「質(Quality)」をキーワードとして取り上げ、日本が2015年2月に決定した「開発協力大綱」の重点項目に明記された「質の高い成長」や、9月に国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」に関する議論が交わされました。

 

基調講演で畝所長は、現在の世界の状況について、「今なお10億人以上の人々が極度かつ絶望的な貧困に直面しており、世界的な経済格差、各国内の経済格差はますます広がっている。さらに、開発の問題はグローバル化、複雑化している」と問題提起しました。SDGsと2015年が達成期限だったミレニアム開発目標(MDGs)との違いに関して、SDGsでは17の開発目標と169のターゲットを2030年までに達成するために、途上国のみならず、すべての国連加盟国が努力することを誓ったと述べました。

 

畝所長は、「質の高い成長」をどのように実現するかについて、JICAのこれまでの協力事例を交えて説明。「質の高い成長」の実現に重要なコンセプトとして、開発協力大綱にも盛り込まれている「包摂性(inclusiveness)」「持続性(sustainability)」「レジリエンス(強じん性・復元性、resilience)」の3点と、「イノベーション(innovation)」を指摘しました。

 

JICAが協力したコンゴ民主共和国のコミュニティ道路
JICAが整備に協力した
コンゴ民主共和国のコミュニティ道路
(写真:久野真一/JICA)

これらのコンセプトを生かした事例として、紛争終結後のコンゴ民主共和国におけるコミュニティ道路の復興事業(包摂性)や、ブラジルの熱帯サバンナ地域を世界有数の農業地帯へと変貌させたセラードの開発(持続性)、2013年にフィリピンで発生した台風ヨランダにおける緊急援助から災害復旧、復興計画の策定までのつなぎ目のない協力(レジリエンス)などを挙げました。そして、イノベーションを含むこれらコンセプトが総合的に実現した事例として、タイの東部臨海工業地帯における自動車産業を挙げました。タイでは、1995年には年間5億ドルにも満たなかった自動車輸出額が2008年までに280億ドルにまで伸びています。

 

成長の「質」と「量」の関係について、畝所長は、次のように主張しました。

 

「質を担保するのに量を犠牲にしてはならない。量を担保するのに質を犠牲するのでもない。量と質の両立を目指さなければならない。開発協力大綱には、量と質が両立する『質の高い成長』とそれを通じた貧困撲滅への注力がうたわれている。『質の高い成長』の理論化は、これからの重要な研究課題である」

 

シンポジウムではそのほか、「気候変動に対して強靭で持続可能な農業を目指して」「アフリカにおける農産物の安定生産と消費促進に向けたアプローチ」「アジアにおける地域資源の評価とその活用によるバリューチェーン構築」をテーマとしたセッションが行われました。

関連ファイル

発表資料:Why the Quality of Growth Matter? from Japan’s experiences(畝、PDF、1.8MB)

日時2015年10月28日(水)
場所東京、国連大学



開催情報

開催日時2015年10月28日(水)
開催場所東京、国連大学

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