JICA緒方研究所

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幸福(wellbeing)と発展を測る指標とは:OECDの専門家会合で畝所長が視点を提起

2015年11月25日

経済状況、社会の進歩、人々の幸福度を反映した、政策判断の適切な指標とはどのようなものか-。経済協力開発機構(OECD)は、国内総生産(GDP)に代わる指標についての研究の一環として、「アフリカの幸福(wellbeing)と発展の指標に関するハイレベル専門家会合」を2015年11月12日から14日まで、南アフリカのダーバンで開きました。コロンビア大学政策対話イニシアティブ(IPD)やJICAが共催。JICA研究所の畝伊智朗所長がオープニングセッションで、指標を考える視点などについて提起しました。

 

発表する畝所長(左から2人目)、スティグリッツ教授(同4人目)ら
発表する畝所長(左から2人目)、
スティグリッツ教授(同4人目)ら

畝所長は、「質の高い成長-開発協力機関の見解」のテーマで発表。「幸福とは何か」を考えさせられた自らの体験をまず話しました。それは、日本に研修にやってきたエチオピア人技術者の話でした。ほかの研修員たちが母国の家族や知人へのおみやげとして、ラジオやテレビなどの電化製品を買い込むなか、彼だけは何も買いませんでした。理由を聞くと彼は答えました。「私の国では、家畜も農地も大きな家も持たない人のことを、貧しい人というのです」。彼は、エチオピアや自分のことを貧しいとは考えず、日本の生活を懐疑的にみていました。

 

畝所長は、何を幸福と考えるかは国や人により異なっていることを前提に、幸福についての視点を持つことの重要さを訴え、幸福と発展を考える会合の意義を伝えました。

 

その上で畝所長は、アフリカの状況について、ミレニアム開発目標(MDGs)の多くの指標で改善がみられ、絶対貧困の削減にも成功している一方で、過激な暴力主義、富裕層と貧困層の格差、都市と地方の格差など新たな課題に直面していると指摘。これらの課題へ対応するためにも人や社会に焦点を当てた戦略が必要であり、人間中心の成長戦略には経済指標で測ることがなかった幸福といった側面にも注意を払う必要があると述べました。

 

エチオピアでのカイゼンの取り組み
エチオピアでのカイゼンの取り組み
(写真:今村健志朗/JICA)

そして、「アフリカ稲作振興のための共同体(CARD)」イニシアティブやカイゼンなどアフリカの貧困削減に向けたJICAの取り組みについて紹介。「質の高い成長」に関連して、第二次世界大戦後、短期間で経済成長を遂げた一方、公害などの経済成長のマイナス面にも直面してきた日本の経験を生かして、協力する準備があると述べました。また、日本が1993年以来、アフリカ開発会議(TICAD)を通してアフリカを支援してきたこと、来年2016年のTICAD VIがアフリカで初めてケニアで開催されることを紹介し、次のように述べました。

 

「社会と人間に焦点をあてた指標についての本会合の成果は、来年ケニアで開かれるTICAD VIでのアフリカのリーダーや開発関係者らの議論に大いに貢献すると信じます」

 

畝所長は、JICA研究所とIPDが共同で、2008年からアフリカ諸国のガバナンス、工業化や経済政策について調査、検討し、経済改革のための具体的かつ戦略的な提案を行ってきたことも紹介。今後、新たに「アフリカの質の高い成長」をメーンテーマとした研究プロジェクトを開始する意向も表明しました。

 

オープニングセッションでは、会合のホストであるEbrahim Patel 南アフリカ経済開発大臣や、ノーベル経済学賞受賞者で、IPD代表のジョセフ・スティグリッツ・コロンビア大学教授ら6人が登壇。スティグリッツ教授は、「なぜ指標が重要か」のテーマで発表。「何を測るかは社会にとって何が大切かを表し、それは政治的な部分とも関係する。不正確な指標は誤った決断につながる可能性がある」と指摘しました。

 

オープニングセッションに続いて、失業とインフォーマルセクター、国民経済計算、所得と富の不平等、はく奪の多面性、ジェンダー、SDGsの7つのセッションが行われ、新たな指標作成に向けた議論が繰り広げられました。

 

日時2015年11月12日(木) ~ 2015年11月14日(土)
場所南アフリカ、ダーバン



開催情報

開催日時2015年11月12日(木)~2015年11月14日(土)
開催場所南アフリカ、ダーバン

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