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ブラジル「セラードの奇跡」のプロセスと要因をさぐる書籍が発刊

2015年12月2日

かつて不毛の地だったブラジルの熱帯サバンナ地域「セラード」は、いかにして世界で最も生産性の高い農業地帯の一つとなったのでしょうか?

 

「セラードの奇跡」と呼ばれる農業開発の過程と成功の背景を追った書籍「Development for Sustainable Agriculture: The Brazilian Cerrado(持続可能な農業を目指す開発-ブラジルのセラード)」が2015年10月、Palgrave Macmillan社から出版されました。細野昭雄JICA研究所シニア・リサーチ・アドバイザー(SRA)、Carlos Magno Campos da Rochaブラジル農業研究公社(EMBRAPA)元総裁、本郷豊・元JICA国際協力専門員が編者を務めました。

 

現在は農地が広がる<br />ブラジルのセラード
現在は農地が広がるブラジルのセラード

ブラジルは現在、世界の主要な穀物生産国の一つであり、2011年には世界最大の大豆輸出国ともなりましたが、かつては穀物の輸入国でした。しかし、1980年代、日本も協力した農業開発により、ブラジルは大きく発展しました。熱帯地域で初めて、近代的穀物農業を実現させたのです。「緑の革命」への貢献によりノーベル平和賞を受賞したNorman E. Borlaugは、セラードにおける農業の発展は「20世紀農学の偉大な業績の1つ」だと述べています。

 

セラード開発は、ブラジルが世界有数の穀物生産国となったことで、世界の食料安全保障にも貢献しました。

 

本書は、セラード農業と共に発展した、農業関連産業のバリューチェーンと、それによって創出された雇用機会の拡大、地域開発に注目します。そのうえで、セラード開発を、「持続可能な農業」の発展プロセスとしてとらえ、その過程と成功の背景を明らかにしようとしています。

 

日本は、1974年にセラード開発への協力を開始し、その後2001年まで、セラード開発を進めるブラジルの関係機関と協力してきました。

 

本郷元専門員は、JICAの前身の一つである海外移住事業団に入団し、1974年にJICAブラジル事務所に赴任しました。以来、約20年間にわたってセラード開発に携わり、セラード開発に最も深くかかわった日本人の1人です。細野SRAは、日本の開発研究の第一人者として、現在は主に開発と日本の協力についての研究を、能力向上(キャパシティ・ディベロップメント)と産業の発展に焦点を当てて行っています。今回2人は、共同で現地調査も行いました。

 

細野SRAは本書について次のように述べています。

 

「この本は、日本とブラジルの研究者・実務者による共同作業の成果です。持続可能な農業を可能にした技術・制度面のイノベーションに関する章は、セラード開発に直接かかわったブラジルの人たちによって書かれています。セラードの研究がさらに進むこと、またこの本がその第一歩となることを期待しています」

 

さらに細野SRAは、2015年が日本とブラジルの国交樹立120周年という記念すべき年であることも指摘。「パイオニアである日系農民たちが、とくに初期段階のセラード開発で多大な貢献を果たしたということを多くの人に知ってほしい」と話しています。




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