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「貧困削減レジーム」は本当に有効か:古川元上席研究員が大来賞受賞で記念講演

2015年12月18日

著書『国際援助システムとアフリカ-ポスト冷戦期「貧困削減レジーム」を考える』(日本評論社)が第19回国際開発研究大来賞を受賞した古川光明・元JICA研究所上席研究員(現JICA南スーダン事務所長)が2015年12月8日、一般財団法人国際開発機構(FASID)で記念講演を行い、執筆の経緯や著作のポイントなどを話しました。

 

FASIDの杉下理事長(右)から表彰される古川元上席研究員
FASIDの杉下理事長(右)から表彰される
古川元上席研究員

FASIDが主催する大来賞は、多様化する国際開発分野における研究の奨励と良書の発掘を目的に、国際開発分野の課題をテーマに優れた指針を示す研究図書を顕彰しています。審査委員長であるFASIDの杉下恒夫理事長は、今回の応募作品について、全体のレベルの高いものが多かったと振り返るとともに、審査委員全員が古川元上席研究員の作品を高く評価したことに言及。「国際開発の研究は現場とかい離があってはならない。古川さんの作品は、現場での経験とJICA研究所や大学での研究成果を政策・立案に結びつけている点で評価が高かった」と講評しました。

 

表彰に続いて、古川元上席研究員は『冷戦終結後の国際開発援助体制の課題と展望:「貧困削減レジーム」を中心に』をテーマに記念講演を行いました。

 

古川元上席研究員による記念講演
古川元上席研究員による記念講演

 

1990年代以降、国際社会は貧困削減を共通の目標とし、一定のルールに従って援助国間で協調して援助効果向上の取り組みを行う「貧困削減レジーム」が形成されてきました。背景には、ドナー主導の援助プロジェクトが増えた結果、途上国政府の負担と開発援助の非効率性が生み出され、途上国政府の行政能力をも損ねる「プロジェクトの氾濫」が生じているという認識がありました。古川元上席研究員は、1997年にタンザニアで参加したドナー会合で、比較的プロジェクト型の援助が多かった日本の援助方針が批判を受けたことに触れ「現場で活動する中で、『貧困削減レジーム』が本当に有効のか、国際開発援助にとってどのような意味を持つのか知りたかった」と、本書の執筆に至った思いを述べました。

 

講演の前半では、マクロ分析から冷戦終結後の国際開発援助体制を検証。「貧困削減レジーム」が形成されていった背景、「貧困削減レジーム」による協調型援助が行われている国・地域の特徴やドナーとの関係、さらに「プロジェクトの氾濫」の問題を克服するために導入された一般財政支援の効果と限界などに言及しました。その上で、サブサハラ・アフリカや南アジアの一部では、北欧諸国プラス(北欧諸国、英国、アイルランド、オランダ)を中心とするドナーが「貧困削減レジーム」を積極的に導入しているにもかかわらず、貧困削減目標の達成率が低いことなどを指摘。一方、援助依存度が高い低所得国では、「プロジェクトの氾濫」を改善することにより、援助効果が上がることなどを説明しました。

 

タンザニアでの協力プロジェクト(写真:久野武志/JICA)
タンザニアでの協力プロジェクト
(写真:久野武志/JICA)

後半は、「貧困削減レジーム」における優等生としてのタンザニアの事例を紹介。タンザニアでは「貧困削減レジーム」が形成され、援助効果向上に向けた政府とドナーの積極的な取り組みが進められていました。他方、異なる援助方針に基づく中国の援助も受け入れていたことやタンザニア国内の政治的状況などから、計画と実施の過程でドナーの想定とタンザニア政府の対応に大きなギャップが生じ、ドナーが期待したほどには成果は現れなかったと説明しました。これは、ドナーの意向と途上国政府の意向が一致するものではないことを示す一例と話しました。

 

古川元上席研究員はタンザニアの事例を踏まえ、「貧困削減レジーム」の効果と今後の展望について「途上国の行財政管理能力や政策対話構造等の強化など、上流部分では効果があった。この効果を維持しつつ、『援助の政治』から『実施の政治』にいかに踏み込んでいくかが課題」と述べ、講演を締めくくりました。

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日本評論社

 

日時2015年12月 8日(火)
場所東京



開催情報

開催日時2015年12月 8日(火)
開催場所東京

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