JICA緒方研究所

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『人間開発報告書2015』国内発表会で、畝所長が「人間開発のための仕事」についてコメント

2015年12月22日

国連開発計画(UNDP)が毎年発行する『人間開発報告書2015』の国際公式発表会が12月14日、エチオピアのアディスアベバで開催され、日本でも同日、メディアや学術関係者、NGO代表者などを招いた発表会が国連大学本部ビルで行われました。JICA研究所の畝伊智朗所長が有識者代表として出席し、報告書が「仕事」の概念を幅広くとらえ直したことを評価しました。

 

発表する畝所長
発表する畝所長

『人間開発報告書』は1990年の創刊以来、最新の開発課題や国際潮流をテーマとし、その現状と課題を分析する内容となっています。今年のテーマは「人間開発のための仕事」。報告書では、有償労働と無償労働の不均衡を分析し、グローバル化とデジタル革命によって引き起こされる仕事をとりまく環境の変化に焦点を当てています。また、すべての人が「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)」を持つことができるよう、平等で持続可能な発展を実現するための政策を提案しています。

 

国内発表会では、近藤哲生UNDP駐日代表が報告書の概要を説明。「この25年間で、人間開発の観点で低い水準で生活する人が20億人減少した今、人間開発を前進させるためには『仕事』に注目すべき。仕事をすることが経済的な豊かさだけではなく、人々の生活を豊かにするには課題をチャンスに変える方法を考えていく必要がある」と強調しました。

 

続いて、畝所長が、経済指標では測れない現実に目を向ける必要があること、社会的弱者への配慮、「持続可能な開発目標(SDGs)」と人間の安全保障との観点から、報告書についてコメントしました。

 

発表する近藤UNDP駐日代表
発表する近藤UNDP駐日代表(右から3人目)

経済指標で測れない現実について畝所長は、「この報告書の画期的なポイントは、『仕事(work)』を、職業(job)や雇用(employment)よりも広い概念でとらえ、GDPなどの経済指標では測れない無償の家事労働やボランティア活動、創造的活動にも光を当てたことにある」とコメント。そして11月に参加した経済協力開発機構(OECD)が主催する「アフリカの幸福と発展の指標に関するハイレベル専門家会合」に触れ、GDPは便利な指標である一方、家庭内労働が反映されないなどの問題点が指摘されていることを紹介しました。さらに「JICAの開発協力の現場では、いわゆる職業ではなく、無償であるために忘れられがちな女性や子どもの仕事について知ることによって事業を円滑に実施していくことができる」と30年の開発事業の経験を通じた経験を語りました。

 

社会的弱者への配慮については、女性の家事労働はジェンダーの観点からも重要であり、多く議論される一方で、障害者の就労などについては見落とされがちであることを指摘した上で、報告書に「障害を持つ人々が働けるようにする」と明記されている点を評価しました。アジア太平洋障害者センター(APCD)へのJICAによる障害者支援分野の協力などを紹介し、加えて、JICA研究所のカマル・ラミチャネ招聘研究員(現筑波大学教育開発国際協力研究センター准教授)の著書『Disability, Education and Employment in Developing Countries: From Charity to Investment』から、障害者の教育収益率は、健常者と比較して2~3倍も高いことも明らかになったという研究結果を紹介。「障害者の教育や就労の社会へのプラス効果は想像以上に大きい。包摂的な教育環境や就労環境を作ることは、開発関係者に課せられた重要な課題である」と訴えました。

 

畝所長はまた、2015年は国際開発にとって大きな意味を持つ年であったと強調しました。9月には2030年までの開発目標であるSDGsが合意され、日本では2月に「開発協力大綱」が閣議決定され、「人間の安全保障」は改めて、日本の国際協力の基本方針の一つとなりました。「JICAでは人間の安全保障を事業実施の重要な視点として位置付けており、この視点を通じて人間開発に積極的に貢献していくとともに、このような時期に人間開発報告書が人間開発の概念や指標の見直しに着手することは意義深く、JICAとしても今後の議論に積極的に参加していきたい」と意欲を示しました。

 

質疑応答では、ディーセント・ワークの意味合いについて、「国によって違う」との意見が出たほか、無償労働についての議論がありました。

 

JICAとUNDPは、国内外で連携しており、田中明彦JICA前理事長は、2013年版から『人間開発報告書』のアドバイザリー・パネルに就任し、日本唯一のメンバーとして助言や提言を行ってきました。

 

日時2015年12月14日(月)
場所東京



開催情報

開催日時2015年12月14日(月)
開催場所東京

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