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中東・北アフリカ安定に雇用と教育を:ブルッキングス研究所との共同研究の成果を発表

2015年12月28日

JICAと米国のシンクタンク、ブルッキングス研究所による共同研究の集大成『「アラブの春」から5年:中東・北アフリカ地域におけるインクルーシブな成長に向けて』がこのほど発刊されました。それに合わせ、論文を執筆したJICA関係者による研究成果発表セミナーが12月17日にJICA市ヶ谷ビル国際会議場で開かれ、JICA研究所の村田旭研究員と亀山友理子研究員、結城貴子元研究員(現株式会社グローバルリンクマネジメント、シニア研究員)が執筆者として参加しました。

 

冒頭、共同研究の研究主幹で世界銀行の中東・アフリカ地域担当の副総裁でもあるハフェズ・ガネム上席研究員が登壇し共同研究の成果を紹介。同地域の安定にはすべての人々に恩恵をもたらす「インクルーシブな成長」が不可欠であると説明しました。また、国際社会が抱える共通の課題として、1. 制度改革、2. 中小企業振興、3. 農村開発、4. 教育の質の向上、の4点を挙げ、「中東地域で起きているテロ、内戦、難民などの問題は、地域ではなく世界の問題。国際社会は共にこれらの問題に向き合うべき」と強調しました。

発表する村田研究員
発表する村田研究員

村田研究員は、「エジプトとインドネシアの比較による若年層の職業選好」について発表し、エジプトの雇用においても「インクルーシブな成長」の促進が必要だと主張しました。その理由として、1. ユース・バルジと呼ばれる人口に占める若年層の割合が突出して高い人口転換を迎え、若い世代の活力を経済成長に取り込み、人口ボーナスを享受できるかどうかが重要な課題である、2. 人口動態の劇的な変化と遅々として進まない経済構造改革のため失業問題が悪化している、3. 若年層(特に高学歴)で失業率が高い、の3つの課題を指摘しました。

 

研究では、2013年7月から3か月間に渡り、エジプトの6都市、10大学の工学部所属の大学生を対象として職業選好調査を実施しました。また、国民の多数をイスラム教徒が占め、人口動態や若年失業問題などエジプトと共通した課題を抱えるインドネシアでも同様の調査を実施し、エジプトと比較しました。調査結果から村田研究員は「高学歴若年層は公務員を選好する傾向にあるが、官民間の給与格差が是正され、資格取得などの教育補助、職場のITインフラ環境の改善、労働者への医療保険の補助などの労働条件の改善などをすることによって、その関心を将来的に民間セクターにも広げていく余地がある」と提言しました。

 

亀山研究員は結城元研究員と共に「アラブの春後のイエメンにおける基礎教育の質改善」について発表しました。イエメンの教育レベルは非常に低く、2011年に行われた小学4年生の国際学力調査TIMSS(国際数学・理科教育調査)は参加した中東諸国で最下位、また他の国際学力調査の総合得点でも、アフリカを含む中低所得国の中でも低い結果となりました。さらに、近年の初等教育の就学率の増加に伴い、教員1人当たりの生徒数は1.5倍に増え、教育の質の低下も危惧されています。

亀山研究員と結城元研究員による発表
亀山研究員と結城元研究員による発表

学習成果を改善するためには、イエメンのこれまでの教育制度や学校運営、政策の改革、学習成果や人事管理などのデータベースの効果的な活用が不可欠です。イエメンでは2015年の内戦により、高まっていた教育改革への機運が一時中断されましたが、現在は中長期的な教育戦略計画策定の再開に向けて教育省も動き始めています。2人は発表を通じ、「学習成果改善に向け、制度レベル、学校・コミュニティレベルでの包括的な取り組み、アカウンタビリティ強化の必要性を発信していきたい」と語りました。

 

閉会のあいさつに立ったガネム上席研究員は、教育における大きな問題として、時間の不足とガバナンスや教員の質などを含む教育の質を指摘するとともに、次の世代に持ち越すことなく教育問題を改善することの必要性を強調。「教育は経済発展だけでなく、平和や安定、女性の役割を考える上でも非常に重要な問題。今回の研究成果を今後のプロジェクトに生かしていくことが大切」と述べ、セミナーを締めくくりました。

 

日時2015年12月17日(木)
場所JICA市ヶ谷ビル



開催情報

開催日時2015年12月17日(木)
開催場所JICA市ヶ谷ビル

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