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伊芸研究助手が「南アフリカにおける障害者の多面的な貧困に関する実証研究」について学会で発表

2016年3月4日

障害に関する国際シンポジウム「Disability and the SDGs: Forming Alliances and Building Evidence for the 2030 Agenda」(主催=International Centre for Evidence in Disability、ICED)が、2016年2月18、19日の2日間、英国・ロンドンで開催され、JICA研究所の伊芸研吾研究助手が「南アフリカにおける障害者の多面的な貧困に関する実証研究」の成果を発表しました。

南アフリカの障害者ら

主催のICEDは、国際保健や熱帯医学の分野で高い評価を持つLondon School of Hygiene and Tropical Medicineによって2010年に設立された研究機関です。今回のシンポジウムは本会議と分科会で構成され、本会議では持続可能な開発目標(SDGs)における障害問題の取り組みに向けて、どのようにエビデンスを積み上げていくかが主な議題となりました。国際保健機関(WHO)や英国国際開発省(DFID)、国際NGOの取り組みや、障害の測定に関する調査、障害者を含む包摂的な開発のベストプラクティスなどが発表されました。分科会は、保健・リハビリテーションサービスへのアクセス、貧困、子どもの障害など11のテーマで行われ、伊芸研究助手は貧困に関する分科会で発表を行いました。

伊芸研究助手は、障害者の状況を含む家計調査データが公開されている南アフリカを対象とし、2015年11月に研究を開始しました。実証分析で使用したデータは、2011年に実施された同国の人口センサスの10パーセントサンプルデータで、約120万世帯、約450万人のデータが含まれています。障害以外の要因をコントロールするために、年齢、性別、人種、居住地(市)などが一致している障害者と非障害者をマッチングさせたうえで、教育や雇用、所得、生活水準などにどの程度差があるかを比較しました。さらに、視覚や聴覚などの障害の種別や複数の障害を抱えている障害者に分けて、比較・分析を行いました。

今回の発表では、(1)南アフリカにおいて障害者は、非障害者に比べて、教育や雇用、所得、生活水準といった面で全般的に不利な状況に置かれている、(2)障害種別によって障害者と非障害者の格差が異なり、特にコミュニケーションや記憶、移動に障害を抱えている人や複数の障害を抱えている人が非障害者との差が大きい、(3)人種ごとに障害者間の貧困状況を比較すると、黒人障害者が最も高い割合で貧困状態にある、との暫定結果を報告しました。

発表に対してシンポジウムの参加者から高い関心を得た一方、年齢や、都市部・農村部といった居住地の種類別に比較を行ってはどうかというコメントがありました。また、分科会全体に対する意見として、障害が貧困に影響を与える理論的メカニズムについては依然として不明な点があり、引き続き実証研究を蓄積していく必要があることや、分析結果を政策や実践に活用するためには、その結果を分かりやすい形で提示しなければならないことなどが挙げられました。

研究成果は今後、JICA研究所のワーキングペーパーとして発表される予定です。

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