JICA緒方研究所

ニュース&コラム

ブラジル「セラードの奇跡」の歴史と成功要因を語る:書籍刊行記念セミナーをブラジリアとサンパウロで開催

2016年3月18日

ブラジルは現在、世界の主要な穀物生産国の一つであり、2011年には世界最大の大豆輸出国にもなっていますが、かつては穀物の輸入国でした。それが1970年代に始まった大規模な農業開発により、不毛の地だった広大な熱帯サバンナ地域「セラード」が世界で最も生産性の高い農業地帯の一つへと生まれ変わり、状況が一変しました。それは熱帯地域で初めての大規模な近代的穀物生産の実現であり、「セラードの奇跡」とも呼ばれています。

ブラジリアのセミナーで会場からの質問に答える本郷氏

この「奇跡」の歴史と要因を追った書籍「Development for Sustainable Agriculture: The Brazilian Cerrado(持続可能な農業を目指す開発-ブラジルのセラード)」が2015年10月、Palgrave Macmillan社から出版されました。その刊行を記念したセミナーが2016年3月3日にブラジル農畜産研究公社(EMBRAPA)との共催でブラジリアで、また4日にブラジルJICA研修員同窓会(ABJICA)との共催でサンパウロにて開催され、同書の編者である細野昭雄JICA研究所シニア・リサーチ・アドバイザー(SRA)や本郷豊・元JICA国際協力専門員らが講演しました。

編者の一人で、1970年代からセラード開発に携わった本郷氏は、「セラード農業の発展の概要」について説明しました。本郷氏によれば、セラード成功の背景には、開発当初より日伯両国によって進められた「研究協力による農業技術の開発」、「両国により設立されたCAMPO社による事業全体のコーディネーション機能」、さらに「開発に必要な潤沢な資金協力」などが相乗的な効果を挙げたと指摘。1979年から2001年までに21の拠点で35万ヘクタールが開拓されたことを説明しました。この結果、2万人の雇用が生み出され、年間生産量は65万トン、年間売上は1億6000万ドルに達しました。また、こうした開発拠点での成果が周辺地域に普及し、農業生産を拡大していったと指摘しています。

セラード開発の功績は、英国の経済誌『エコノミスト』(2010年8月28日号)が「セラードの奇跡」として取り上げ、また緑の革命を主導したことによりノーベル平和賞を受賞し、世界食糧賞の創設者であるNorman E. Borlaug博士が「セラードの農業開発は20世紀農学史上の最大の偉業の1つ」と称賛したことなども紹介しました。

発表する細野SRA=ブラジリア

同じく編者の一人である細野SRAは、「セラードの農業開発と社会的包摂」と題して、セラード開発の役割とインパクトについて発表しました。セラード農業開発は、同地域の所得向上や雇用拡大に貢献し、経済成長率を高め、他地域からの移住による人口増も実現させたと指摘。雇用拡大の背景には、穀物農業とともに、農業関連産業バリューチェーンが生み出されたことにより、さまざまな産業の発展が起こったことがあると説明しました。

また2012年6月にブラジル・リオデジャネイロで開催された「国連持続可能な開発会議(リオ+20)」の成果を踏まえ、「持続可能な開発目標(SDGs)」が2015年9月、国連サミットで採択されました。その文脈から細野SRAは、セラードの農業開発は、ブラジルが世界有数の穀物生産国になったことで世界の食料安全保障に貢献していることに加え、インクルーシブ(社会包摂的)で持続可能な地域開発に貢献し、生態系や環境保護をも重視した農業としても注目されているとを指摘しました。

セミナーでは、もう一人の編者であり、セラード開発を牽引したEMBRAPAのCarlos Magno Campos da Rocha元総裁が「持続可能な農業のための研究開発体制」のテーマで、EMBRAPA設立の経緯から、セラード開発で克服してきた課題、そして気候や土壌などの条件が似ている熱帯サバンナ地域への、その経験の提供可能性などについて語りました。このほか、同じくEMBRAPA元総裁のEliseu Alves氏、CAMPO社社長Emiliano Pereira Botelho氏、ブラジル環境・再生可能天然資源院(IBAMA)のEdson Eyji Sano氏などが、様々な切り口からセラード開発の意義と成功要因について講演しました。

ブラジリアのセミナーでの書籍授与

両セミナーには、セラード開発を牽引してきたブラジル連邦政府やセラード地域に位置する州政府の代表者、また実務家、研究機関、大学の研究者などが参加しました。ブラジリアのセミナーには、書籍に序文を寄せているAlysson Paulinelli元農務大臣(1970年代にセラード開発に着手した農務大臣)らも登壇し、会場の関係者と様々な意見交換を行いました。

細野SRAはセミナーについて「世界の食糧バスケットとして大きな役割を果たすまでに発展したブラジルのセラード開発を牽引してきた関係者が一同に会して、示唆に富む議論が行われ、歴史的意義が高いセミナーだった」と話しています。

ページの先頭へ