JICA緒方研究所

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Kenneth King教授を講師に「難民と教育」めぐり議論

2016年3月31日

JICA研究所とNORRAG(Network for International Policies and Cooperation in Education and Training)は、JICA研究所客員研究員で、エジンバラ大学名誉教授のケネス・キング氏を講師に、「難民と教育」について議論するセミナーを2016年3月2日、JICA市ヶ谷ビルで開催しました。

JICA研究所の後藤幸子研究員(右) とエジンバラ大学名誉教授のケネス・キング氏

セミナーは、深刻化する難民問題と、難民が直面する教育に関するさまざまな課題を検討することを目的として開催されました。当日は、NORRAG Newsの編集長も務めるキング教授が議論を主導し、JICA研究所の後藤幸子研究員が新たな研究プロジェクト「失われた教育機会の回復」について説明しました。

後藤研究員は冒頭、近年難民への教育をはじめとして、紛争と教育をめぐる問題への関心が高まっているものの、紛争のために教育を受ける機会を失ったまま学齢期を過ぎてしまった若者や大人への再教育(教育の「セカンド・チャンス」)については研究を含め十分な注意が払われて来なかったことを指摘しました。その上で、今回の研究では、そのように若者・大人となってから教育のセカンド・チャンスを得た人々のライフストーリーを聞き取り、彼らがどのように教育機会の喪失という困難を克服したかについて明らかにしたいと説明しました。この研究では、紛争の影響を受けた5つの地域(東ティモール、ルワンダ、ウガンダ北部、ボスニア・ヘルツェゴビナ、パレスチナ)で調査が行われる予定です。

キング教授は、難民の人々が第二のチャンスを得て教育を受けても、トップクラスの大学の入試を突破するのは容易ではないと考えられ、第二のチャンスは「次善の策」にとどまる可能性がある、と発言しました。

JICA研究所の畝伊智朗所長(当時)(左)

キング教授はまた、「難民の教育を支援するための予算は、緊急人道援助の予算でまかなわれているが、緊急人道援助に占める教育予算の割合は非常に小さい」と付け加えました。

持続可能な開発目標(SDGs)では、すべての人への質の高い教育の提供やすべての人が働きがいのある人間らしい仕事をすることが目標として掲げられています。しかし、キング教授は「これらの目標は、難民に対しては保障されていない。難民は就業が許されていないことも多く、結果としてインフォーマルセクターでしか働けない」とコメントしました。そして、難民問題は、アイデンティティの問題であると同時に、政治の問題でもある、とも述べました。

JICA研究所の畝伊智朗所長(当時)は、難民問題と途上国の開発の問題とのかかわりについて、「難民キャンプや国内避難民(IDP)キャンプは手厚い支援を受けている一方、難民らを受け入れているホストコミュニティへの支援は置き去りにされていることも多い。キャンプの生活水準が地域の人びとの暮らしぶりを上回る事態も生じており、両者の間にあつれきを生むこともある」と発言しました。

参加者の一人は難民の教育について、「難民の教育に関する研究では、対象とする地域について、紛争国(地域)なのか、ホスト国なのか、周辺の第一次庇護国なのか、それともホスト国から難民を受け入れる第三国なのかを明確にし、そのうえで、どんな教育が必要かを議論すべき」などの意見を述べました。

キング教授は、欧州や中東で難民危機が深刻化することを受けて、NORRAG Newsは2016年4月号で、難民と教育をめぐる国際問題を特集する予定であることを紹介しました。

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