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Manning元OECD/DAC議長らが日本の援助の特徴を議論:「Japan's Development Assistance」発刊記念セミナー

2016年6月7日

JICA研究所は2016年5月23日、経済協力開発機構(OECD)開発援助委員会(DAC)元議長で、オックスフォード大学シニア研究員のRichard Manning氏らを迎え、2015年11月にPalgrave Macmillan社から発行された英文書籍「Japan's Development Assistance‐Foreign Aid and the Post-2015 Agenda‐」の発刊記念セミナーをJICA市ヶ谷ビルで開催しました。日本の援助の特徴について、執筆者や研究者らが議論しました。

発表を聞く参加者たち

本書は、JICA研究所の研究成果をもとに、60年にわたる日本のODAの歴史を振り返りつつ、これからの日本の国際協力が果たすべき役割を問うという問題意識のもとに出版されました。加藤宏JICA理事(元JICA研究所長)、John Pageブルッキングス研究所上席フェロー、下村恭民法政大学名誉教授が編者を務めました。Manning氏は執筆者の一人で、本書の中では日本とDACとの関係について執筆しました。

開会あいさつで北野尚宏JICA研究所所長は「日本の強みは何か、質の高い成長の実現には何が必要なのか、中国、韓国のアプローチとどのように差別化すべきか、DACを含めた開発援助レジームはどう変容するのか、本書が今後につながる議論のきっかけとなることを期待している」と述べました。引き続き、加藤理事は本書の全体像を紹介するとともに、「国際協力は近年多様化している、これから新たに援助に踏み出す国も多い。日本の援助のあり方を振り返り、概念化・言語化することは、さまざまなアクターに対して指標を提供することになる」と本書の意義を説明しました。

Richard Manning氏

基調講演に立ったManning氏は、欧米ドナーを中心に構成されるDACに参加しながらも、アジア的な取り組みを維持してきた日本の援助の特徴を、「自助努力を重視し、無償協力よりも有償協力、プログラムよりもプロジェクト、基礎的サービスよりも経済インフラに重点的に取り組んできた。日本の民間部門と緊密な関係にあり、地政学的にアジアを重視している」と指摘。こうした姿勢が、日本と他のDAC加盟国との関係に影を落とすこともあったと振り返りました。

また、DAC諸国が互いに評価を行う援助審査(ピアレビュー)の記録を引用しながら、戦後補償から始まった日本の援助が1960年代から1990年代にかけてどのように変わってきたかを説明し、「日本は1970年代にはアンタイド分野、1980年代には国際開発目標の設定、ここ数十年は三角協力分野で主導的な役割を担ってきた」と評価しました。一方で、「日本の援助に変革を求める他のDACドナーに対して、日本は『守り』の姿勢をとることが多かった。日本とDACはもっとクリエイティブな関係になり得たかもしれない」とも述べました。

さらに、日本の援助モデルの強みは、援助の核となる自助という考えや戦後復興の経験から得た日本独自の教訓、多国間および二国間の合理的なバランス、技術的な専門知識、JICAを通じた援助の仕組みなどにあるとの考察を示しました。一方で、厳しい財政状況に直面する日本は、国内から支持を得られる国際協力の事例の積み重ねに苦労していると指摘。「質の高い成長」を実現させ、効果的な日本らしい援助手法を、エビデンス(科学的根拠)の裏付けに基づき議論することが重要だと述べました。

下村恭民名誉教授

下村名誉教授は、Manning氏の基調講演について、「日本が歩むべき開発協力の将来についての示唆にあふれていた」と評価。その上で、「Manning氏の指摘を踏まえつつ、日本とDAC諸国はその関係を構築し、開発の新たなアプローチを模索していくべき」とコメントしました。

その後の質疑応答では、東南アジアへの援助の経験のアフリカへの共有、日本と韓国や中国、欧米ドナーとの違いなどについて、質問や意見がありました。Manning氏は「アフリカ諸国は東南アジア諸国に比べて経済規模が小さい。国レベル、地域レベルでできることに目を向けるべき」「日本企業は東南アジアとは深い関係を持つが、アフリカとの関係は薄い。政府が企業にアフリカへの投資をどのように促すかが重要」などと回答し、開発援助への日本のさらなる貢献に期待を寄せました。

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