JICA緒方研究所

ニュース&コラム

森林を守るためには、包括的な経済的価値の評価が必要:成田研究員がエチオピアで発表

2016年5月11日

REDD+(レッドプラス:Reduction of Emission from Deforestation and forest Degradation+)
とは、途上国が自国の森林を保全するため取り組んでいる活動に対し、経済的な利益を国際社会が提供するという枠組みです。森林減少・劣化による温室効果ガス排出削減を図るREDDに加えて、森林保全や持続可能な森林経営、森林が蓄積する炭素の増加に関する取り組みも含めて排出削減を実現することをねらいとしています。

発表する成田研究員

このREDD+の推進と、参加型森林管理に関するワークショップが2016年3月22日、エチオピアのアジスアベバで開かれ、JICA研究所の成田大樹研究員(当時、現招聘研究員)が「エチオピアにおける森林の経済的価値の評価に関する研究」の成果を発表し、現地関係機関や援助関係者と議論を行いました。

開催されたワークショップのタイトルは、「オロミア地域での参加型森林管理を通してのREDD+推進に関するワークショップ~気候変動に草の根イニシアティブでどのように対応するか~」。JICA地球環境部と、エチオピア・オロミア州のオロミア森林公社のREDD+調整局が主催しました。主催機関の関係者のほか、世界銀行、ドイツ国際協力公社(GIZ)、World VisionやFarm AfricaなどのNGOの実務者らが参加し、今後、REDD+に関連した取り組みを進めていく上での課題などを話し合いました。

JICAは、オロミア州で、ベレテ・ゲラ参加型森林管理計画プロジェクト(2003年10月~2006年9月)、同フェーズ2(2006年10月~2012年3月)を実施しました。現在取り組んでいる付加価値型森林コーヒー生産・販売促進プロジェクト(2014年7月~2020年1月)では、REDD+の要素をプロジェクトの活動に盛り込むことを検討しています。エチオピアの森林は、かつて国土の4割の面積を占めていたとされますが、現在は1割以下に減少しました。一方、国内の温室効果ガスの排出量の40パーセント近くが森林減少によるものとみられ、エチオピア政府もこの問題に強い関心を持っています。一方で、適切な対策を検討する上では、多様な森林の機能や価値を客観的かつ包括的に評価することが重要です。

「エチオピアにおける森林の経済的価値の評価に関する研究」について成田研究員は、エチオピア国内の森林の経済価値を国内総生産(GDP)や国連が策定した「環境・経済統合勘定(SEEA)」の考え方に沿う形で包括的に評価することが目的だと説明しました。そこから得られた結果はJICAの森林プロジェクトの効果の実証にも役立ち、REDD+の議論にも貢献できると述べました。

ベレテ・ゲラの森林地帯 (写真:渋谷敦志/JICA)

成田研究員は、「自然資本への投資については、GDPでとらえられないものも多く、またGDPでとらえられていても、その推定は不完全で、特に枯渇、価値低落は考慮されてない」と指摘。今回の研究では、森林からもたらされる利益と、森林減少による価値の損失との明確な対比を、環境会計の最新の理論的文献に基づいて明らかにしており、これは、先行研究にはなかった特徴の一つだとしました。また、天然の森林の価値だけでなく、植林や造林など人の手による森林の価値も最近のデータを基に評価したことと、エチオピアの森林の文化的価値についての質的研究の文献をまとめ、量的評価と同じ概念枠組みで議論したことも、今までの研究にはなかった点だと説明しました。

成田研究員は「エチオピアでは現在も、家庭の燃料の80パーセントは薪や木炭で、GDPの約4パーセントがコーヒー、はちみつ、材木などの森林関連の産品。森林は人々の生活にとって非常に重要な役目を担っており、REDD+の視点は重要だ。また、森林の宗教的・シンボル的価値も大きなものがある。今後は特定の地域の森の文化的価値を、文献で確認し、これを経済面からあわせて評価することなども考えていきたい」と話しています。

ページの先頭へ