JICA緒方研究所

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比較国際教育学会で、モンゴル、カンボジア、ネパールでのインクルーシブ教育の調査結果を発表

2016年5月11日

比較国際教育学会(Comparative International Educational Society:CIES)の年次会合が2016年3月6日から10日まで、カナダのバンクーバーで開催されました。JICA研究所からは、亀山友理子研究員や黒田一雄客員研究員(早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授)らが参加し、モンゴル、カンボジア、ネパールで行ったインクルーシブ教育に関する教員・保護者の意識調査の結果を発表しました。

発表する亀山研究員(中央左)

インクルーシブ教育とは、男女や民族、言語、住む場所、HIV/AIDSの影響、障害や学習障害の有無にかかわらず、学校やその他の学びの場がすべての子どもたちを受け入れ、すべての若者と大人たちに教育の機会を提供する、という考え方です(注)。今回の対象国では、この理念に対する質問ではなく、障害児と非障害児を一緒の教室で勉強させる形態の教育について聞いています。

亀山研究員らは3月7日に行われたグループセッションに登壇しました。まず黒田客員研究員が、JICAが目指す「インクルーシブな開発」という理念のもと、2014年に開始された研究プロジェクト「障害と教育」について、研究の背景や調査手法など全体像を説明しました。

亀山研究員は「モンゴルにおける質の高い障害児教育に対する障壁」について、教員と保護者の意識調査の分析結果を発表しました。通常学校と特別支援学校、教員と保護者を問わず、設備や備品の不足、学校の資金や給与・手当などの金銭的な不足が障壁であるとの意識が強いと報告しました。障壁の調査項目を「物品・金銭」「(障害児教育に関する)理解」「教員研修」因子に分けて、推計統計分析を行いました。その結果、通常学校の教員たちは、障害児教育に関する理解が障壁であると強く考えており、「理解」因子が大きく作用していることがわかったと述べました。そしてインクルーシブ教育政策を推進するには、物品不足や教員が抱えている研修不足のほか、保護者や他の教員との協力を強化するなど包括的なアプローチが必要であると述べました。

ネパールの子どもたち (写真:佐藤浩治/JICA)

研究分担者のダイアナ・カルティカ氏(早稲田大学博士後期課程在籍)は、「カンボジアの教員と障害児の保護者におけるインクルーシブ教育に関する意識調査」の結果を発表しました。カルティカ氏は、量・質的分析に基づき、障害児を教えた経験のある教員は、障害の程度にかかわらず、障害児にはインクルーシブ教育が望ましいという意識が強いという結果を示しました。また推計統計分析の結果から、教員研修の有無は、インクルーシブ教育を推進する意識との間には有意な関係性が認められないことを報告しました。

上智大学総合人間科学部の杉村美紀教授は、「ネパールにおける質的調査」の成果を報告しました。モデル学校、聾(ろう)学校、非就学障害児の3者を事例に、保護者、校長、教員の学校形態に対する見解における相違点を分析し、完全にインクルーシブな教育をめざすだけではなく、部分的に特別支援教育を活用する教育のあり方も幸福につながることをネパールの例は示しているのではないか、と述べました。また学校でインクルーシブな教育を受けても、インクルーシブの準備ができていない社会では、その効果を生かすことが難しいと指摘しました。

発表後の議論では、途上国での障害児教育に関するデータが不足していることから、各国で1,700人超規模の調査を行ったこの研究は貴重なデータを提示したと評価するコメントがありました。

モンゴルでの意識調査で、影響している要因に関する質問に対して、亀山研究員は「データ自体に価値のある調査のため、まずは基本的な分析を行い、今後因果関係等の要素を含む研究を行っていきたい」と話しています。

今回の年次会合には、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)、ユニセフ(国際連合児童基金)などの国連機関や米国国際開発庁(USAID)、セーブ・ザ・チルドレンなどの開発援助機関や国際NGOの実務者、大学やブルッキングス研究所をはじめとする研究機関の研究者が、合計2,700人以上、約100ヵ国から参加しました。今大会では、2015年9月に採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」の目標4「質の高い教育」に関する発表が多く、その指標について議論するセッションがみられました。


(注)ユネスコによる定義(2009年)

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