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コロンビア大学IPDとの共同研究「アフリカにおける質の高い成長」第1回執筆者会合を開催

2016年6月29日

コロンビア大学政策対話イニシアティブ(Initiative for Policy Dialogue: IPD)との共同研究「アフリカにおける質の高い成長」第1回執筆者会合が2016年 6月6日~7日、米国のコロンビア大学で開催されました。JICA研究所は2008年から、ノーベル経済学賞を受賞したJoseph Stiglitzコロンビア大学教授が率いるIPDとの共同研究を実施しており、本研究が第4弾となります。
Stiglitz教授、Akbar Nomanコロンビア大学教授、Ravi Kanburコーネル大学教授が共同議長を務める会合には、約20人の研究者や開発機関の実務者が出席。JICA研究所からは萱島信子副所長、細野昭雄シニア・リサーチ・アドバイザー(SRA)、Sakiko Fukuda Parr特別招聘研究員(米国ニュースクール大学教授)、島田剛招聘研究員(静岡県立大学准教授)、岡本真澄職員の5人が出席し、発表・議論に参加しました。

萱島副所長(左)とスティグリッツ教授

開会のあいさつでStiglitz教授は、アフリカの成長は他の国や地域の模倣ではなしえないと指摘し、質の高い成長には、産業や経済の転換(transformation)というこれまでの議題に加え、地球温暖化や雇用創出を含む労働を取り巻く課題、天然資源や観光資源の開発、格差是正などあらゆる議論を尽くす必要があると述べました。そのような課題解決には政府の役割が重要であり、果たすべき役割を再定義する必要があると主張しました。また第二次世界大戦後に成長を遂げた日本の経験や教訓を基に、各国に支援を展開するJICAの知見は貴重であると語りました。

続いて萱島副所長は、成長の質を議論する重要性の根拠として、アフリカ経済は堅調に成長を続ける一方、教育や就労機会の格差という新たな問題が浮上していると指摘。「第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)」の開催を8月に控え、この会合での議論を反映させていきたいと述べました。

共同議長のKanbur教授が進行役を務めた「持続可能な開発目標(SDGs)とアフリカ」に関するセッションで、Fukuda Parr特別招聘研究員は、SDGs策定は政治的合意の産物だが、世界における課題を再考察する意義があり、課題解決に向けた推進力となっているとの認識を示しました。

細野SRAの発表を聞く参加者

細野SRAは、「アフリカと貿易・投資・援助に関する新国際基準」に関するセッションで、アフリカ経済の転換をもたらすための質の高い成長について、2010年のアジア太平洋経済協力(APEC)以降の国際的な議論を紹介しました。質の高い成長は、学び続ける社会(Learning Society)や、包摂性、強靭性、持続性のある社会の実現に寄与すると指摘。JICAの技術協力の事例をもとに、イノベーション、インフラ開発、制度の発展などと相まって、産業の転換と成長が実現することを紹介しました。

島田招聘研究員は「アフリカの環境と気候」に関するセッションで、アフリカでも自然災害が年々増え、特に干ばつが深刻な問題をもたらしていることを取り上げ、世界銀行や国連食糧農業機関(FAO)のパネルデータを活用した計量分析結果を発表しました。自然災害は農地拡大と森林減少を同時に引き起こし、発生から1年後には家計の消費が減少する一方、一人当たり経済成長率には影響しないため、自然災害の影響を過小に評価する傾向にあると指摘しました。今後はこのような課題に対応するため、JICAプロジェクトの事例を分析していく予定であると述べました。

岡本職員の発表

岡本職員は「貧困・格差・雇用」に関するセッションで、アフリカには紛争、自然災害、社会経済的格差などメンタルヘルスを損なう要因が多数あるとした上で、精神的健康を高める取り組みを行わない場合、新たな紛争が生じるリスクや生産性の低下による成長の停滞が起こりかねないと警鐘を鳴らしました。会場からもメンタルヘルスは気候変動や栄養問題への取り組みに影響を与える要因であり、重要なテーマであるとの指摘がありました。

今回を含む計2回の会合を経て、2018年前半を目途に書籍化、発刊される予定です。

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