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豊かな国は貧しい人々を助けるべき、だが従来型の援助だけでは通用しない-マンチェスター大学 ヒューム教授が講演

2016年8月10日

新著「Should Rich Nations Help The Poor?」を執筆した英国マンチェスター大学のデビット・ヒューム教授を迎え、JICA研究所は、2016年7月27日、JICA市ヶ谷ビルで、公開セミナー「豊かな国は貧しい人々を助けるべきか」を開催しました。ヒューム教授は、貧しい人々や国を助ける理由を倫理面と、豊かな国自身の利益の両面から説明したうえで、その方法としては、従来型の海外援助だけではなく、貿易・投資・環境政策の役割が大きくなっていると論じました。

開催のあいさつをする萱島副所長

冒頭、萱嶋信子JICA研究所副所長が「開発協力に30年以上携わっているが、この問いへの答えを知ることには、いまだに興味がある」と開会のあいさつを述べ、セミナーは始まりました。

ヒューム教授は、毎日、約8億人が満足な食事をとることができず、妊娠や出産が原因で約1400人の女性が命を落とし、約2万9000人の子どもが予防可能な病気で亡くなっていると現状を示しました。同じ人間としてこうした人々を助ける「道徳的義務」があり、また、このような状況を引き起こした原因の一端は歴史的に見て先進国にあると述べました。その例として、現在の貿易システムや気候変動は植民地時代の奴隷貿易のように貧しい国々や人々を苦しめているとし、その意味で、「道義的責任」としても、豊かな国は貧しい人々を助けなければならないと述べました。

講演するヒューム教授

また、こうした倫理的な面だけではなく、先進国の人々が享受している幸福を、今後も維持し、さらにその子孫に引き継ぐためにも、貧しい国や人々を助けなければならないと指摘しました。グローバル化が進んだ現在、遠く離れた土地の問題もすぐに豊かな国の問題になる。避難民や移民、テロ、気候変動、国際犯罪や新しい健康などの問題に国境はなく、相互につながる世界の中ではグローバルな問題にはグローバルな対応が必要だと述べました。

こうした課題への対策は、従来であれば援助だったとしたうえで、民間投資や中国の資金などにより、伝統的な対外援助の相対的な影響力は減少傾向にあると指摘し、今起こっている多くの課題の解決には、従来の方法では通用しないと説明しました。例えば、気候変動は、今までの経済成長と人間開発を支えてきた高炭素社会の限界を示唆し、人類の未来のためには新しい経済モデルが必要と述べています。豊かな国の人々は、このような点を踏まえ、モノ、サービス、金、人、情報の流れが増え続けるグローバル化の進展、世界各地でみられる経済格差の拡大に気付く必要があると強調しました。そして、従来型の援助だけではなく、貿易、金融や環境政策改革-あるいはこれらをを効果的に結合した政策-が考慮されるべきだと提言しました。

発表を聞く参加者たち

一方、NGOと市民社会組織については、「多くのNGOが政策立案や持続可能な開発目標(SDGs)に焦点を当て、政策立案にかかわるエリートや専門家との対話にばかり目が向き、市民との対話が置き去りになっている」と指摘。再び市民とつながることが大切だと述べました。

質疑応答では、フロアーから、開発援助の将来に関してその分野や方法などについて質問があり、ヒューム教授は、援助プログラムが本当にその国のニーズに合っているかどうかを確かめる必要があり、期待される結果を生み出すためには、その援助プログラムに、国際組織だけでなく国内のアクターも含めるべきであると答えました。

関連動画

Interview: 'Why Should Rich Nations Help the Poor?' with David Hulme (JICA-RI Official Channel)

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