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ネットワークを活用した研究のスケールアップ

2011.09.30

小中鉄雄次長、野田光地シニアリサーチオフィサーが語る研究ネットワークの重要性

国際援助に携わる研究所や大学などで構成する国際機関グローバル・ディベロップメント・ネットワーク(GDN)。地域ネットワークの一つであるGDN-Japanの事務局をJICA研究所が担っています。各国の機関とつながっている研究ネットワークの意義や、今後のネットワークのあり方などについて紹介します。

研究ネットワークの概要

JICA研究所が現在有する研究ネットワークにはどのようなものがありますか。また、その意義は。

小中:ネットワークという言葉だけ捉えると、やや実態のない表面的なイメージがありますが、JICA研究所の研究プロジェクト自体その約8割は国際的な研究者等との共同研究ですので、ネットワーク性は既にビルトインされているともいえます。JICA研究所の場合、他の研究専門の独立行政法人等と異なり、あくまで全体組織の一部門にすぎませんので、企画立案から実施、発信に至るまで、外部の研究者等とのネットワークを効果的に活用して質的・量的スケールアップを図っていくことが重要です。最近の顕著な事例としては、世界銀行の「世界開発報告(WDR)」への貢献、また米国ブルッキングス研究所・韓国のKOICAとの共同研究などが挙げられますが、特に世界の開発援助潮流に訴求しようとすると、単独では難しい面もあり、こうした研究連携をレバレッジにすることは大事だと考えます。

また、JICA研究所のネットワークで特に紹介しておきたいのが、開発研究分野での国際機関であるGDN(グローバル・デベロップメント・ネットワーク)との関係です。GDNの日本ネットワーク(GDN-JAPAN)のハブ機関を当研究所が担ってきていますが、その点は長年事務局の総括を務めてきた野田シニアリサーチオフィサーから説明頂きます。

GDNとJICA研究所

GDNの活動について詳しく教えて下さい。またJICA研究所との関係は。

野田:GDNは国際開発に関わる研究者・実務者間の情報交換、知識の共有化、共同研究活動などを通じて調査研究と政策間の橋渡しを行い、更に途上国の研究者、実務者の能力向上を図ることを目的に創設された世界的なネットワークです。1999年に世界銀行内で当時の上級副総裁Joseph Stiglitz氏(2001年ノーベル経済学賞受賞者)を議長に、UNDP、国際経済学連合、アフリカ、東南アジアの国際開発研究の有識者及び大学教授らを招いた会議で構想が固められ、同年に正式発足、2001年には世界銀行から独立しアメリカのNPO法人となり、2008年には国際機関化を果たしています。

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GDNのトップである理事長は、今年6月にErnesto Zedillo氏(元メキシコ大統領)からAlan Winters氏(英DFIDチーフエコノミスト、元世界銀行開発研究グループ局長)に交代したところですが、各国・地域担当理事を始め、メンバーには世界の著名な研究者、実務者が名を連ねています。GDNというチャンネルを通じて著名メンバーとの緊密な関係を築ける点も、GDNの持つネットワークの強みの一つです。日本担当理事は初代が浦田秀次郎氏(早稲田大学教授)で、現在は林薫氏(文教大学教授、JICA研究所GDN-JAPANアドバイザー)が務めています。現在、GDNは国際的な研究プロジェクトの実施、ウェブサイトGDNetを通じた研究者情報、データベースの提供なども行っていますが、最大の活動は、GDN本部が主導し、各国、地域ネットワークの協力を得て開催する年次会合です。毎回、国際開発に係る先端的な重要テーマをもとに開催され、世界中の研究者、政策立案者、援助機関関係者らが参加し、全体では数百人が参加する大規模なものです。

日本の貢献として特筆すべきものが、年次会合において最終審査、授賞が行われる日本国際開発賞です。同賞は宮沢蔵相(当時)がGDN発足の1999年に提唱し、刷新的な開発プロジェクト、研究を発掘・助成するために設けたもので、プロジェクト、リサーチ部門の両賞からなります。途上国からのみ出願可能なものとしては、国際開発分野で最大級の研究コンペとされており、日本政府がGDNを通じて途上国の人材育成に積極的に取り組んでいるという効果的なメッセージとなっています。

世界全体では、日本を含む11のGDN地域ネットワークが活動しています。日本単独のGDN-JAPANはネットワークの機動性を生かしつつも、年次会合の場を利用し、東アジア地域ネットワークEADNとの共同研究発表を行うなど、日本、東アジアにおける開発経験、新興ドナー、開発金融に関連する調査研究から得られた知識を発信、情報共有を行っています。また、GDN本部、GDN-Japanのウェブサイト、ニューズレターなども利用し、広く国内外にも発信しています。国際開発研究における世界規模での恒常的な交流・情報共有の場はGDNだけであるとも言え、JICA研究所のみならず日本国内での研究成果発信の場としても、今後ともGDNとの連携を深めて行くことは非常に有意義であると考えられます。

今後のネットワーク拡充の方向性

JICA研究所として国内外のネットワークをどのように維持発展させていくことが必要ですか。

小中:確立されているネットワークを活用することは効率的でもあり、GDNや世銀等との関係維持、発展は引き続き重要です。加えて、今後は特にアジア地域を中心に重要かつ将来性のある各国の研究機関とバイ・ベースで連携強化を図っていくことも必要なのではないか考えています。当研究所の既往研究「ASEAN統合における人間の安全保障の主流化」で、ASEAN戦略研究所と共同研究を実施していますが、これなどは一つのグッドプラクティスと言えるかと思います。現在JICAは、中国・韓国・インド・タイといった新興ドナーとの間で組織的な定期協議を行っていますが、その一環としてこれら諸国の関係機関と研究面でも重層的関係が構築できれば面白いところです。また、これまでの研究でも国内の研究機関や大学関係者に共同研究者として参画頂いていますが、JICAの国内センターでは別途担当地域にある主要大学との連携協定を締結してきているので、そうした組織ベースでの関係強化に基づき研究にかかる意見交換・情報共有を拡充していくことも必要でしょう。

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こうした国内外のネットワークを通じた意見交換・議論を通じ、我々自身も視野が広がり新たな研究課題等が触発されていくことは多々ありますので、結局のところ研究そのものの成果向上につながっていくものと確信しています。JICA研究所が日本、そして世界の援助研究の「知」の「梁山泊」となるようネットワーク活動にも注力していきたいと考えます。

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