JICA緒方研究所

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アフリカ産業集積の発展を目指して

2010年11月2日

The industrial cluster of furniture workshops in Arusha, Tanzania, has expanded drastically since 2000. Improvements in road networks such as international and domestic highways have contributed to its development.

産業集積を軸としたプログラムアプローチの枠組みを提示

JICA研究所では、世界銀行アフリカ局と財団法人国際開発高等教育機構(FASID)との共同研究プロジェクトとして「アフリカ産業集積の実証研究」を行っています。JICAがアフリカの民間セクターを中心とした経済成長の加速化を支援する中で、同研究が果たし得る役割やこれまでの成果などについて紹介します。


研究プロジェクトの概要

研究の目的とその背景

ミレニアム開発目標(MDGs)の達成やアフリカ開発会議(TICAD)プロセスの着実な実施など、現在、アフリカにおける経済成長を通じた貧困削減は、日本および国際社会共通の課題となっています。しかし、その経済成長を支える産業の発展過程やそれに伴う雇用創出などについては、これまであまり研究されていないというのが現状です。

開発途上国において産業がどのようにして芽生え発展するのか、またそれを支える政策やインフラが果たす役割など、産業発展の基本的なメカニズムを解明していくことは、今後、より効果的な開発援助を実施していく上で不可欠です。また、戦後の高度経済成長を牽引してきた日本企業や、近年、目覚しい発展をとげる中国をはじめとした東アジアの企業なども、もともとは零細・小規模企業であったことを考えれば、アフリカの経済成長を促進させるためには、この零細・小規模企業に着目していく必要があります。

こうした立場からJICA研究所では、世界銀行アフリカ局、FASIDらとともに、アフリカにおける零細・小規模企業の集積の発展過程に注目した「アフリカ産業集積の実証研究」を実施しています。本共同研究は、ガーナ、ケニア、タンザニア、ルワンダ、カメルーン、モーリシャスの6カ国を主な対象として、零細・小規模企業の産業集積の現状をミクロレベルで実証分析することで、現在の停滞している要因を割り出し、それを打開するために有効であろう政策を提示するものです。

研究の成果

アフリカの民間セクターの現状

世界銀行が行った投資環境調査分析によると、アフリカの民間セクターには、零細・小規模企業が約70万社あるのに対し、大企業は10万社程度に留まっています。一方、売り上げの総額で見ると、数では少ない大企業が約900億ドルであるのに対し、逆に数が多い零細・小規模企業は、150億ドル程度しかありません。また、大企業は外国資本または少数民族系が経営する外資系企業、零細・小規模企業は国内資本の地場企業である場合が多く、両者の間には大きなパフォーマンスギャップが存在しています。これが、いわゆるミッシング・ミドル問題と呼ばれるものです。

こうした企業タイプごとに、「International Export Markets」(海外輸出市場)、「National Markets」(国内市場)、「Local Markets」(地元市場)へのアクセスについて見ると、海外輸出市場への売り上げの割合は外資系企業が約7%であるのに対し、地場企業は約2%、国内市場への割合は、外資系企業が約40%なのに対し、地場企業は約20%となっています。さらに地元市場への割合は、外資系企業が約50%に留まっているのに対し地場企業は約80%を占めており、地場企業はより大きな市場へのアクセスが限定されていることが分かります。

この地場企業を規模(従業員数)別に分析していくと、地場企業であっても大規模企業の場合、売り上げに占める各市場の割合が外資系企業とほぼ同じ傾向を示していますが、零細・小規模企業の売り上げの約90%は地元市場が占めていることが明らかになっています。この結果は、企業の規模が各市場へのアクセスの割合を決定付けていることを示唆するものです。ただし零細・小規模の地場企業でも、産業集積の中にいる企業の方が外にいる企業よりパフォーマンスが高く、産業集積地に立地することで規模の小ささを補っている可能性があることも確認されています。

アフリカにおける産業集積の分析

JICA研究所では、この規模の小ささを補うメカニズムとしての産業集積に着目し、零細・小規模企業が発展する、あるいはしない要因について分析を進めています。その結果、産業集積の形成には、タンザニア北部、ケニアとの国境に近いアルーシャ市内にある家具企業の集積地の例が示すように、道路インフラなどの状況や民族ネットワークというものが深く関係しています。

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アルーシャ市内の幹線道路沿いに並ぶ家具の売店

国内幹線道路や国際幹線道路に直結する交通の要衝であるアルーシャでは、1970年代にはほんの数社しかなかった家具企業が、国内経済が安定し始めた2000年以降に急激に増加。現在では、270ほどの工房が軒を並べる集積地となっています。そして、その集積地に新規参入する企業家の多くは、同じ民族グループを頼りに立地場所を選択していることが判明しています。

一般的にこうして産業集積が進むと、各企業の生産量が拡大し類似製品が増加、製品の価格が下がるため各企業の利益は縮小していきます。そうすると、企業家たちは競争相手との差別化を図るため、製品の質の向上や新たな製品開発などに取り組み、結果として産業全体でイノベーションが進むことがアジアなどの例で確認されています。

本研究で実施した調査の結果、アフリカの多くの零細・小規模企業の生産量は、2000年以降、右肩上がりに増加している一方、売り上げや利益は逆に落ち込んでいることが確認されました。つまりアフリカでは、零細・小規模企業の産業集積が多く見られるものの、イノベーションが進んでおらず、生産量の拡大という段階で停滞しているのです。

そこで、イノベーション主導の成長段階を阻害している要因について分析を進めたところ、それは必ずしも資金へのアクセス問題だけではなく、むしろ規模を拡大していくための空間政策や企業家の経営能力不足が関係していることが分かってきました。

零細・小規模企業がイノベーションを伴った成長を通じて規模を拡大していくためには、物理的な生産現場としての空間を拡大していく必要があります。しかし多くの場合、アフリカでは土地の権利は無く、またインフラが整備され産業に適した土地は非常に限られています。さらに、土地利用に関する政策が数年ごとに変わるなどのリスクも高く、それが企業家の投資インセンティブを下げる要因ともなっています。

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経営者トレーニング

企業家の経営能力不足がイノベーションを阻害している可能性について、JICAは世界銀行やFASIDとともに、ガーナ、ケニア、タンザニアで零細・小規模企業の経営者を対象とした「経営トレーニング」の実験を行い、そのインパクトを分析しています。このトレーニングでは、事業計画、マーケティング、生産・品質管理、帳簿付けや原価計算など企業経営に関する研修を実施。その結果、トレーニングを受けていないグループと比較した場合、その後の売り上げや利益が伸びることを確認しています。

こうしたこれまでの研究成果から、アフリカで産業集積に加わる零細・小規模企業のさらなる成長のためには、集積を誘引する道路や規模拡大に必要な物理的な空間を確保するための「インフラ整備」、企業家の経営能力を向上させるための「経営者向けトレーニング」といった“ソフト”と“ハード”の両面から支援していくことの重要性が見えてきました。

研究成果の発信と今後の展望

アフリカの発展に向け高まる期待

本研究プロジェクトについては、その進捗に合わせ2008年5月に日本で開催された「第4回アフリカ開発会議」(TICADⅣ)や同6月に南アフリカで開催された「世界銀行:開発経済に関する年次会合」(ABCDE会合)などで中間報告を行ったほか、今年5月にケニアで世界銀行とJICAが主催したアフリカ企業の成長戦略に関する「シニア・ポリシー・セミナー」やコートジボアールで開催された「アフリカ開発銀行年次総会」などで、最終報告を行っています。

また本研究の成果は、JICAが支援するクロスボーダー・インフラやワンストップ・ボーダー・ポストや品質・生産性向上に向けた協力など、産業集積を軸としたJICAのプログラムアプローチに対し視座を提供するだけでなく、2013年に開催されるTICADⅤで、日本が発信するアフリカの経済成長を目指した支援策の策定にも貢献するものと期待されています。

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