シリーズ「日本の開発協力史を問いなおす」1『日本型開発協力の形成—政策史1・1980年代まで』

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第二次世界大戦後すぐの混沌の中でも、日本の多くの政策決定者が経済協力の重要性を認識していたのはなぜか?本書では、その謎から始まる日本にとっての開発協力の意味を読み解きます。

経済協力と戦後賠償を一体化させた政策を模索し、コロンボ・プランに加盟した1945~1954年、高度成長の成果として開発協力を積極化し、OECDに加盟した1955~1964年、冷戦の中で台頭した日本が援助大国となり、開発途上国のイニシアチブを尊重する「顧客志向型」の開発協力の萌芽が見られる1965~1979年、欧米と東南アジアからの対日批判がピークとなり、この外圧が日本の開発協力政策に重要な変化をもたらした1980年代。被援助国であった日本が世界最大の援助国となるまでの期間を対象に、日本の開発協力に何が起き、どのような政策決定が行われたのか、それぞれの時期を体系的に分析しながら日本の開発協力政策の軌跡を振り返ります。

それを通して浮き彫りになるのは、日本の開発協力政策の「異質性」。インフラ建設と民間直接投資を重視し、開発途上国の経済自立と結び付けた三位一体型の開発モデルや、顧客志向型の開発協力アプローチは、欧米諸国が主導してきた正統的な国際開発規範とは違うものでした。国内の政治動向や国内外からの圧力によって、何度も揺さぶられ、変化を続けながら、「日本型開発協力」が形成されたのです。そして、その「異質性」は、伝統的な開発協力に対して「単眼」ではなく「複眼」的な視座を導入すること、すなわち開発協力に「もう一つのアプローチ」という新しい展望を提示していくことになります。

本書には、日本政府や援助機関、民間企業、国際機関、途上国の行政官や市井の人々にいたるまで、さまざまな立場からの言葉もちりばめられ、資料からだけでは決して見えてこない“人”の姿も感じることができます。長年、開発協力の現場に身を置き、その流れをしなやかに見つめ続けてきた著者だからこその考察がつまった一冊です。

本書は、JICA緒方貞子平和開発研究所の研究プロジェクト「日本の開発協力の歴史」の成果として発刊されるシリーズ「日本の開発協力史を問いなおす」(全7巻)の第1巻です。1990年代以降の開発政策史については、今後発刊される第2巻に収録されます。

著者
下村 恭民
発行年月
2020年12月
出版社
東京大学出版会
言語
日本語
ページ
247ページ
開発課題
  • #日本の開発協力
研究領域
開発協力戦略
ISBN
978-4-13-034220-9
研究プロジェクト