研究プロジェクト「東アジアにおける人間の安全保障とエンパワメントの実践」ワーキングレポート集

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JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)は、東アジアの人間の安全保障に関する規範や慣習についての研究プロジェクト「東アジアにおける人間の安全保障とエンパワメントの実践」を実施しています。同プロジェクトは、人間の安全保障に対する多様で複雑な脅威に直面し、社会から取り残されている人々や弱い立場にあるコミュニティーのエンパワメントを分析することで、人間の安全保障の概念に関する総合的な理解を得ることを目的にしています。本プロジェクトの開始とほぼ同時期に始まった新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)のパンデミックは、人間の安全保障というアプローチについて改めて考え直す重要性を示すきっかけとなりました。パンデミックの現状に照らすと、人間の安全保障を取り巻くあらゆる分野で状況が悪化するダウンサイドリスクが高まっていることは無視できません。本プロジェクトは、女性、子ども、高齢者、難民、その他の弱い立場にある人々が直面している脅威に対するこうした変化についても議論しています。

コロナのパンデミックによる制約の下でもタイムリーに研究成果を発信し、人間の安全保障の保護とエンパワメントを組み合わせた体系的な支援の仕組みを提供するため、本プロジェクトは2段階で実施されています。第1段階では、パンデミックによる危機に対応するための主な手段となるであろう「保護」に関する戦略など、国レベルでのコロナの影響に関する分析を網羅します。第2段階では、第1段階の国単位での分析に続いて、個々のケーススタディーで「エンパワメント」の現状を分析することで、弱い立場にある人々に特化して研究を進めます。

同プロジェクトに参加している8人の研究者が、中間結果として執筆したのがこのワーキングレポート集です。各レポートは第1段階の分析に基づき、重要で互いに絡み合う8つの人間の安全保障に関する問題を分析しています。具体的には、インドネシア、フィリピン、タイ、ベトナム、日本という東アジア5ヵ国で見られる①健康、②食料、③ジェンダー、④経済、⑤高齢化社会、⑥環境、⑦強制移住、⑧平和と公正についてです。この5ヵ国の経験は東アジア地域の危機の全容を反映するものではありませんが、弱い立場にある人々やコミュニティーが経験している重なり合う課題や困難について、重要な分析結果を提供しています。

本ワーキングレポート集は、コロナが貧困、紛争、強制移住や避難などを経験している人々の脆弱性を悪化させるだけでなく、現場で戦う医療従事者の生命をも危機にさらす区別のない広範な影響があることを強調しています。それに加え、このパンデミックは、食料や技術までも含むリソースにアクセスする機会の喪失や制限といった重大な不平等も露見させました。本プロジェクトの現段階では、国家の役割が目立ち、国家が人々を不安定な状況から守ったのか、あるいは逆に悪化させたのか、ケーススタディーによって状況がそれぞれ異なっています。コロナ対策の成果が出てきた国もある一方で、国によっては、コロナの感染拡大が繰り返される中、それを緩和するために明確で実践的な計画を進め、パンデミック後の社会回復に向けて各コミュニティーを導いていくことに今も苦戦しています。

本プロジェクトでは、コロナのパンデミックに対応するためのエンパワメントの実践について理解を深めるとともに、より詳細な状況を把握することを目的として、本ワーキングレポートおよびケーススタディーにかかる研究を今後もさらに発展させていきます。

著者
Le Thao Chi Vu、 Jonatan Anderias Lassa、 Maria Tanyag、 Ma. Lourdes Veneracion-Rallonza、 Arisman、 Surangrut Jumnianpol、 Nithi Nuangjamnong、 Montakarn Chimmamee、 Thananon Buathong、 リセット・ロビレス
発行年月
2021年8月
言語
英語
関連地域
  • #アジア
開発課題
  • #人間の安全保障
研究領域
平和構築と人道支援
研究プロジェクト