No.4 Progress in the Global Framework for Infectious Disease Control in over the Past Thirty Years; What Did We Achieve and Where Are We Going?

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新興・再興感染症の発生はこの30年間の間に加速し、発生国内では感染を食い止められず国境を越えた流行となる事態が生じてきました。そのような感染症の流行の増加には、従来の方法で対応していくことは難しくなり、20世紀後半から 21世紀初頭にかけて、頻発するパンデミックに対処するための革新的な対策を含んだ世界的な感染症対策の枠組みが見直されてきました。

この枠組みの進展には、国連合同エイズ計画(UNAIDS)、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(GTATM)、ストップ結核パートナーシップなどの新しい官民パートナーシップの設立が含まれます。これらの新しい組織は、開発途上国への多額の資金と世界的に統一された戦略により、対象とする感染症の対策に大きな影響を与えました。しかし、このような疾患別(いわゆる垂直的)アプローチにはデメリットもあり、保健システム強化の水平的アプローチへと移行してきました。

さらに、「世界健康安全保障」の概念の導入や国際保健規則の改訂など、感染症対策のプログラム構成要素にも革新的な変化がありました。「世界健康安全保障」の概念は、健康安全保障の概念を、国境を越える感染症流行予防のための世界戦略に結び付けましたが、先進国と開発途上国の間には、この概念の理解を巡る根深い相違があり、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックでは国際的な協力に支障をきたしました。

このように、全体的な進歩と新たな取り組みはあったものの、国際援助は開発途上国の保健システム強化にはつながらず、感染症対策もうまく機能しなかった可能性があります。そのような状況が重なり、2014年に西アフリカ諸国で発生したエボラ出血熱の対策は困難な事態となりました。

こうした悲劇的な経験から、世界保健機関(WHO)の改革や緊急時の資金調達メカニズムの整備など、将来のパンデミックを防ぐための複数の重要なイニシアティブが提案されました。その中でも、現在のCOVID-19のパンデミックと深く関連する最も重要なものは、1)保健システム強化のための強靭性への着目、2)コミュニティ関与の重要性の理解でした。強靭な保健システムの構築に向けた概念的な議論は今も続いており、COVID-19の流行時には、先進国と開発途上国の間で、その概念に関する理解の相違はさらに広がりました。そのため、各国の状況に合わせた強靭な保健システムの確立に向けて、実践的ロードマップの作成に注力し、国内および国際社会における「信頼構築」を優先することが重要です。

キーワード: 感染症、国際保健規則、世界健康安全保障、強靭な保健システム、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)

DOI: http://doi.org/10.18884/00001074

著者
磯野 光夫
発行年月
2022年10月
言語
英語
ページ
33ページ
開発課題
  • #保健医療
研究領域
人間開発