jica 独立行政法人 国際協力機構 jica 独立行政法人 国際協力機構

【今月の研究ピックアップ】1月30日は「世界NTDの日」

2025.01.22

「顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Disease:NTDs)」とは、世界保健機関(World Health Organization: WHO)が指定する21の熱帯感染症を中心とした疾患群を指します。NTDsは低中所得国の貧しい地域に偏って分布し、16億人以上の人々が感染のリスクにさらされています。しかし、薬やワクチンなどの研究開発が進んでいないことから、WHOはNTDsへの理解や関心を高めることを目的に「世界NTDの日」を認定しました。

JICA はこれまでNTDs 対策として、開発途上国の研究機関を対象とした研究能力の強化や寄生虫・媒介虫対策の人材育成、予防・治療のための教育・啓発活動を重要課題に掲げて取り組んできました。大洋州諸国におけるフィラリア症対策では、2000年以来、駆虫薬・検査キットの供与およびJICA専門家、ボランティア派遣などの支援を行い、その成果として、同諸国におけるフィラリア制圧の可能性が視野に入って来ています。

また、全世界からの根絶を目標に対策が進められているギニアウォームについては、1986年には350万人の患者が発生していましたが、2024年にはわずか2ヵ国で7件(暫定値)と、目標に着実に近づいています。JICAは西アフリカを中心に、安全な水給水の無償資金協力、監視体制強化の技術協力、人々の行動変容を促すボランティア派遣、米国NGOのカーターセンターとの連携によるコミュニティー活動の強化などを通じて、その推進に大きく貢献しました。
(JICAによるギニアウォームに関連する取り組みはこちら

さらに、地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(Science and Technology Research Partnership for Sustainable Development: SATREPS)を通じた研究開発の推進、草の根技術協力によるコミュニティーに根差した活動、本邦での技術研修など、さまざまな取り組みを通して、多くのNTDs対策に関わってきています。

JICA緒方研究所では、NTDsも含め、感染症に関するさまざまな研究を実施しています。その成果の一部をご紹介します。

プロジェクト・ヒストリー『中米の知られざる風土病「シャーガス病」克服への道』

NTDsのひとつである「シャーガス病」とは、中南米特有の寄生虫症で、サシガメという吸血性カメムシ(昆虫)を媒介に人間が感染する病気です。本書は、サシガメの生態の研究と分布状況の解明から、サシガメの駆除、再発生を抑え込むための監視体制の構築まで、中南米地域での30年以上にわたる日本の取り組みを振り返ります。

プロジェクト・ヒストリー『ぼくらの村からポリオが消えた—中国・山東省発「科学的現場主義」の国際協力—』

世界最大の人口と広大な貧しい農村地域を抱えた中国は、1990年代はじめからポリオ撲滅への取り組みを進め、日本も撲滅への大きな役割を果たしました。本書では、JICA専門家や関係者などによる現地でのポリオとの闘いの様子や撲滅までの軌跡をまとめています。

書籍『State-Managed International Voluntary Service: The Case of Japan Overseas Cooperation Volunteers』内チャプター「Hearts, Minds, and Sentiments: The Volunteers Program in the Immunization Program in Bangladesh and the Chagas Disease Control Project of Honduras」

バングラデシュでのポリオ対策(拡大予防接種計画)と中米ホンジュラスでのシャーガス病媒介虫対策において、青年海外協力隊(JOCV)が活動の過程でいかに開発途上国の人々の規範、信頼や感情の変化をもたらしたかを考察しています。

研究プロジェクト「COVID-19研究:ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)と強靭な社会に向けて」

将来のさまざまな健康危機に備えるための保健システム、それを支える政府やコミュニティーの在り方をテーマに、以下を含めて8つの研究を行っています。

【感染症研究・早期警戒体制】
「コンゴ民主共和国におけるSARS-CoV-2血清有病率からみた感染実態に関する研究」

本研究は、コンゴ民主共和国において新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の抗体検査を含めた調査を行っています。それにより、地方都市部も含めた新型コロナウイルス感染症の実態の把握、地理的要因や貧困などによる社会経済環境と感染実態との関係性の解明、各保健施設における医療従事者の感染症の実態の把握を目指しています。

【感染症診断・治療体制】
「日本の病院におけるCOVID-19の集団感染に関する事例研究」

日本では、以前より病院での感染症対策は進められてきたものの、コロナ禍では実践的な感染拡大対応の難しさが改めて浮かび上がりました。本研究では、日本国内で大規模な院内感染を起こした台東区、旭川市、戸田市の3病院を取り上げ、公開されている情報を基に、(1)運営、(2)感染の実態把握、(3)感染拡大防止対策の3つの視点から考察しています。

【感染症予防、健康危機への備えの主流化】
「COVID-19対応におけるガバナンスの検討:ベトナムを事例として」

本研究では、新型コロナウイルス感染症対応の「成功事例」と称されるベトナムを取り上げ、感染症対策としての初動の速さや、国家による国民の動員力という視点に加え、実際に国家が市民に対してどのような働きかけをし、市民がどのように反応し、どのように「自発的」に対応したのか、国家と社会の関係から検討しています。

「低中所得国におけるCOVID-19対応が基礎的保健サービスに及ぼす影響に関する研究」

移動制限といった感染症への厳格な対策は、人々の保健医療サービスへのアクセスをも低下させ、健康リスクを高める可能性があります。本研究では、低中所得国の地域病院を対象に、都市部と地域部の格差、感染拡大地域と非拡大地域、地域医療システムと病院の連携の強弱、住民側の意識など、さまざまな背景要因を探索し、課題解決に向けた考察を行っています。

「リスクコミュニケーションとコミュニティエンゲージメントが人々の健康行動に与える影響:COVID-19感染症への対応から考える」

感染症の拡大を防ぐには、人々が新しい感染症に対する効果的な予防行動をいかに迅速にとるかが重要です。本研究では、公的セクターや住民などの各アクターの特徴や、アクター間のつながりが健康行動に与える影響、そして平常時のアクターがどう有機的につながってコミュニティーをつくると緊急事態への迅速な行動につながるのか分析しています。

ナレッジ・レポートNo.1 「COVID-19に対するベトナム政府の初期政策対応分析~2020年6月までの3つの波への対応~」

ベトナムは、国際比較上、厳格な新型コロナ対策を選択し、それに対し国民の理解を得ながら成果を出した国と位置づけられています。なぜ迅速かつ全政府機関を通じた徹底した対策を講じることができたのか、2020年6月までの初期の政策対応の経過を辿り、意思決定の仕組み、対策に国民の協力を得るためのコミュニケーション手法やナラティブについてとりまとめています。

ナレッジ・レポートNo.4 「Progress in the Global Framework for Infectious Disease Control in over the Past Thirty Years; What Did We Achieve and Where Are We Going? 」

新興・再興感染症の発生はこの30年間の間に加速してきたことから、WHOの改革や緊急時の資金調達メカニズムの整備といった将来のパンデミックを防ぐためのイニシアティブが提案されています。本レポートでは、その中でも、保健システム強化のための強靭性への着目と、コミュニティー関与の重要性の理解が重要だと論じています。

ナレッジ・レポートNo.5 「ブータンにおける公衆衛生重視のCOVID-19対策とその背景 —どのように保健医療人材・施設の不足に対応したか?—」

保健医療人材が不足し、医療施設・医療機材も不十分なブータンでは、COVID-19に対し、国際標準よりも厳しい水際対策やCOVID-19ワクチン接種全国キャンペーンの実施など、感染拡大を抑制する公衆衛生的な対応に力を入れ、人材の不足を多分野の協働とボランティアの投入で補いました。ロックダウンなどで国民に不自由な生活を強いることになる中で国民を束ねたのは、指導者のリーダーシップと徹底した情報公開・情報伝達だったと論じています。

論文「Economic Valuation of Safe Water From New Boreholes in Rural Zambia: A Coping Cost Approach」

感染症対策には、保健医療分野での取り組みだけでなく、安全な水へのアクセスの改善も重要です。本論文では、安全な水と安定した水資源へのアクセス改善による水因性疾患の減少を目的にJICAがザンビアで深井戸施設を建設したプロジェクトから得られたデータを分析しました。その結果、労働年齢成人の下痢の発生率が下がったことによる生産性の向上や、子ども、特に未就学児童の下痢も減少したといったプロジェクトの成果を示しています。

\SNSでシェア!/

  • X (Twitter)
  • linkedIn
トピックス一覧

RECOMMENDこの記事と同じタグのコンテンツ