No.5 ブータンにおける公衆衛生重視のCOVID-19対策とその背景 —どのように保健医療人材・施設の不足に対応したか?—

  • #ナレッジ・レポート

ブータン王国(以下、「ブータン」)では、2020年3月5日に最初の新型コロナウイルス感染症(以下、「COVID-19」)患者が発見された後、優れたリーダーの下で、国際標準よりも厳しい水際対策、保健医療人材の確保と再配置、ボランティアの動員、ICT活用、COVID-19ワクチン接種全国キャンペーン実施、保健セクターと他分野の協働などを含む対策を実施した。それらにより、オミクロン株流行後の2022年3月まで、市中感染拡大を防止することに成功した。同国では、COVID-19関連の死者は2022年9月までの累計で21名、100万人当たり換算26.84名と少数に抑えられている。

ブータンでは保健医療人材が不足し、医療施設・医療機材共に不十分であることから、重症者の治療は困難であるとの判断に基づき、COVID-19対策は感染拡大を抑制する公衆衛生的な対応に力を入れた。すなわち、ロックダウンを実施して市中感染拡大を防止し、その間に大多数の国民にワクチンを複数回行き渡らせた。その背景には、国王はじめ政府指導者の間に「国民の命を何としても守る」という一貫した思想があった。

国民に不自由な生活を強いることになる公衆衛生的対応実施にあたり、国民を束ねたのは、指導者のリーダーシップだった。国王は、南部など市中感染発生エリアを何度も訪れ、現場の感染症対策を指揮し、人々を励ました。また、医師である首相や公衆衛生専門家である保健大臣らが頻繁に行なった記者会見等での言葉は、専門性に裏付けられた説得力があった。

限られた保健資源の中、国内では入手が困難なもの(情報・知識・技術、ワクチン、医療機材等)は外国の支援を得て導入した一方、国民・ボランティアのCOVID-19対策への参加、保健分野と他分野の協働、ICTシステムの自国開発と活用、医療施設不足を補う臨時の代用施設など、国内に存在し、利用可能なものは最大限に活用して対応にあたった。

キーワード
COVID-19、公衆衛生、保健システム、リーダーシップ、保健医療人材

著者
渡部 晃三
発行年月
2023年3月
言語
日本語
ページ
20ページ
関連地域
  • #アジア
開発課題
  • #保健医療
研究領域
人間開発