「DAC脆弱国取組原則」起草における 一担当者の取り組み

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2007年4月、経済協力開発機構(Organization for Economic Co-operation and Development:OECD)開発援助委員会(Development Assistance Committee:DAC)は、国際社会が脆弱国に対して開発協力を行う際、国家建設(state-building)を中心的な目的として集中すること、と謳った脆弱国支援の取り組みに関する最初の原則文書「脆弱な国や状況に対する良い国際関与のための諸原則」(Principles for Good International Engagement in Fragile States & Situations)を採択した。

当時、著者は日本のODA実施機関の一担当者として同文書の起草のためDACとの協議に加わり、10原則からなる同文書の核心的原則である原則3「国家建設を中心的な目的として集中すること」(Focus on state-building as the central objective)及び原則7「様々な背景を持つ現地の優先事項に様々な方法でアラインすること」(Align with local priorities in different ways in different context)に日本の主張を盛り込むことができた。即ち、原則3はDACの当初案では国家の主要機能の強化に偏重していたので、国家と国民の健全な関係性を示す文言を盛り込んだ。また、原則7はDACの当初案では方法論に偏重していたので、現場のリアリティーを踏まえるのが日本型アプローチとし、「現存する地場の制度の中から機能しているシステムを見出し、それを強化することが重要」という一文を加えた。

両主張とも特段異論なく採択されたが、原則3に関しては当時DAC加盟国の間で国家派と社会派の考え方の違いが背景にあり、日本の主張は両派のバランサーとしての役割を果たした。また、原則7に関しては理想形を追求する欧米的アプローチとの対立を見込んだが異論なく採択されたのは、他のドナーも平和構築の実地体験などを通して日本的アプローチのような考え方を受け入れることができるようになっていたためと考えられる。なお、同文書起草と時を同じくしてOECD開発センターでは途上国のinformal institutionsに関する問題意識が共有され始めていたことも、これと流れを同じくするものと考えられる。

同文書採択から10年が過ぎたこの時点で、同文書起草に携わった当時の主な関係者を集め、国際的な振り返りをJICAが企画することを提案する。

著者
福田 幸正
発行年月
2019年2月
ページ
15ページ
開発課題
  • #日本の開発協力
研究領域
開発協力戦略
研究プロジェクト