貧困削減戦略(Poverty Reduction Strategy)の今日的意味

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ポスト冷戦期において「貧困削減戦略(Poverty Reduction Strategy:PRS)」は急速に進化し、唱導され、形成された。本ペーパーは、PRSが当時の時代環境のなかで注目され、議論が白熱した国際開発戦略上の意味を抽出し、問うことを目的とする。PRSの潮流の背景には、統合機運の欧州が結束するなかで、グローバル化のリスクに対処するために中道左派(社会民主主義勢力)政権が台頭し、彼らの国内政策が国際開発にも応用されたこと、また途上国を含め公共セクターの制度改革が試みられ、それとPRSが密接に関連していたことがあった。そのアプローチは2000年代半ばから衰退する。ドナー側の要因としては、①中道左派政権が衰退傾向に入り、新興ドナーが台頭して、援助のアプローチが変化した、②2001年の「9.11.同時テロ」以降の援助がPRSから3Dに変化したi、③イラク侵攻が政治的安定をうまず、米英の民主主義のメッセージが色褪せた、④リーマン・ショックを契機に先進国の経済力が低下し、援助増大の機運が低下した。途上国側の要因としては、①アジアでは経済成長が持続し、所得貧困が激減した、②新興諸国が台頭し、低所得国でも資源開発を背景に外国投資ブームが起きた、③PRSの潮流も民間セクター開発への支援の割合が増え、同時にインフラの援助が増えた、④民主化政権がインフォーマルな権威主義体制を含むハイブリッド・レジームとして定着し、各種の制度改革にストップをかけたことが指摘される。最後に、PRSの将来へのインプリケーションについて言及する。

著者
笹岡 雄一
発行年月
2019年10月
ページ
33ページ
開発課題
  • #日本の開発協力
研究領域
開発協力戦略
研究プロジェクト