援助協調の潮流と日本の対応

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援助協調自体は援助の歴史とともに古く、日本も協調融資や政策対話などの実績を積み上げてきた。一方で、2000年代に活発になった援助調和化の取り組み、プロジェクト型支援への批判からの一般財政支援(General Budget Support:GBS)、セクターワイド・アプローチ(Sector Wide Approach:SWAp)の導入などでは、日本は議論の主導権を取れず、批判される側に回っていた。しかし、事実を振り返ると、日本の援助は、もともと途上国の国内システムを十分活用しており、特に資金規模の大きな円借款では、借入国の予算制度を通じて供与され、財政支援の要素を含んでいた。セクター全体を対象にするような規模の大きな支援が可能で、拡散や断片化などの問題は少なく、量的にもノンプロジェクト型の供与実績は、経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and Development:OECD)開発援助委員会(Development Assistance Committee:DAC)全体の中で遜色があるようなものではなかった。したがって、日本が援助協調に消極的であると批判されるようないわれは本来なかったはずである。しかし、援助協調の議論が、円借款の供与の少ないアフリカへの支援を中心に行われていたことで、援助関係者が日本の援助について十分に対話を行う機会が少なく、争点を適時適切に把握することを妨げた。また、EU統合のユーフォリアが残っていた21世紀の最初の10年に、一部の欧州(西欧)ドナーが国民国家の枠組みを乗り越えようという方向で原理主義化した一方で、日本の援助関係者もそれへの対抗軸を模索したことが、援助協調の議論を日本対欧州(西欧)という図式で理解してしまうことにつながった。

2010年以降、中国が援助を急速に増大させる中で援助協調の議論は一気に衰退してきている。現在では、援助協調どころか国際協調全体が衰退し、一国主義がはびこる極めて憂慮すべき状況になってきている。

著者
林 薫
発行年月
2021年3月
ページ
28ページ
開発課題
  • #日本の開発協力
研究領域
開発協力戦略
研究プロジェクト