JICA緒方研究所

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ワーキングペーパー

No.200 Economic Viability of Large-scale Irrigation Construction in 21st Century Sub-Saharan Africa: Centering around an Estimation of the Construction Costs of the Mwea Irrigation Scheme in Kenya

二十世紀の「緑の革命」を成功させた最も基本的な要因は大規模灌漑システムの開発であった。しかし、これらの大規模灌漑開発事業への投資は1990年代後半以降、あたかもその歴史的使命を終えたかのように、ほぼ完全に影を潜めた。「緑の革命」の成功が大規模灌漑開発を不要不急なものとしたことがその主要な理由の一つであるが、もう一つのより深刻な理由は、これらの大規模灌漑開発事業の多くが、基本調査、設計、建設工事、完工後の運営管理維持の総ての段階において多くの欠陥を持ち、その結果事前の期待を大きく下回る事業パフォーマンスしか達成できなかったという事実にある。このような状況はサブサハラ・アフリカ(SSA)においても全く同様であった。ところが、2000年代後半以降、大規模灌漑開発事業はSSAにおける「緑の革命」を推進する主要な手段として復活しつつあり、この「復活」は、前世紀の大規模灌漑開発事業を開発事業として経済的に不適切なものとした上記の多くの欠陥・問題が克服された上でなされたものであるのか否かについて激しい議論を惹起した。

本稿は、現下のSSAにおける大規模灌漑開発事業が経済的許容可能性を持つものであるか否かにつき、前世紀に同地域で建設された大規模灌漑システムの中で最も優れたものの一つであるケニアのムエア灌漑システムについて、もし同システムを今新たに建設する場合に必要とされる開発事業費を推計することにより、検討した。

分析の結果は、世界市場における米価が2008-2013年のミニ食糧危機の時期と同じくらい高水準にあれば、「ムエア灌漑システム新規建設事業」は経済的に許容可能であるかもしれないことを示すものであった。ただし、その許容可能性はマージナルなものであり、堅牢なものとはいえない。「ムエア灌漑システム新規建設事業」及びSSAで現在建設中ないし計画が進行中の幾つかの二十一世紀における大規模灌漑開発事業の受益灌漑面積当り開発単価は、二十世紀における同種の事業の開発単価の2倍から4倍の高い水準にある。このような高価な開発事業を経済的に許容可能なものにするには、これらの灌漑事業の農業パフォーマンスも2〜4倍高くなければならない。このことは、もし受益灌漑農地に作付けられる作物がコメであれば、その単収が9 t/ha/年 〜 20 t/ha/年という高い水準になければならいことを意味している。SSAには、大規模灌漑開発事業(新規建設事業あるいは既存システムの修復近代化事業)のための未開発ポテンシャルが確実に存在する。しかし、経済的に許容可能なポテンシャルは決して大きなものではない。大規模灌漑開発事業を計画する国際援助機関やSSA諸国政府は、その計画が経済的並びに技術的に許容可能なものであり、農家主導型小規模灌漑やマイクロ灌漑等多くの新しいタイプの灌漑開発手法と比較して確実に勝れた灌漑計画であることを事前評価することが求められる。


キーワード: 費用超過、事業費用構造、悪意の見えざる手、収益率、間接事業費

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